第2話

 とりあえず、肉はポーチ型の悪魔に入れることにした。悪魔使いは色々便利なのだ。

「……はぁー、次どうしよ」

 とりあえず、肉は自分で食べる分以外は売る。そして、塩でもかけてこれは食べる。

 メグは草原を去り、繫華街へと出向く。明るい光が、木製の店の中から漏れていた。

 その中の肉屋に向かい、メグは店主の男に言った。

「これ、パスカルの肉です。買取お願いします」

 ポーチから焼けた肉を注意して取り出す。骨付きだから、持つ部分には困らない

「おうよぉ……って、パスカル!?またすごいもん持ってきたね、お嬢ちゃん」

「お褒め頂き光栄です」

 そんなやり取りをした後、店主は言った。

「ま、とりあえず100ゴールドは払えそうだね。いいかい?」

「ありがとうございます」

 店主から100ゴールドを受け取る。ちなみに、〈蒼鷹の牙〉から受け取った退職金は300ゴールドぽっちだ。

「……ははっ」

 メグの脳裏に、こうやってモンスターを狩っては売る生活を送る自分の姿が浮かぶ。

 なんだかんだ言って、メグには食うに困らない程度の実力はあるのだ。しかし、メグはすぐにその幻覚を振り払った。

 確かに、その生き方もありではあるだろう。その日暮らし、宵越しの銭を持たない暮らしは、一部の人間にとっては主流だ。

 だけど――――バックに何もない少女には、やや厳しい。

 食べていける分は稼げても、薬を買う分は厳しい。冬に暖炉の薪を買う分は?多少の娯楽も生活に欲しい。

 そう考えると、今の状況が最悪であることに変わりはない。メグはそう思った。

「……どーすっかなぁ」

 もやもや考え続けても意味はない。メグはそう切り替え、とりあえず塩を買う。

 汚い宿に戻り、パスカルの肉にそれをかけて噛り付いた。

「……うまっ」

 また塩をかけ、すこしばかり塩辛くなった部分を食べる。飲み込む。メグはそうして、パスカルの肉を食べ切った。

 自然と、メグは涙を流していた。その理由は誰にも分からない。

 追放されたことが悔しかったのかもしれないし、仲間との別れを悔やんでいるのかもしれない。

 ただ――――その涙は、夜が明けるまで止まることはなかった。


◇◇◇


 翌朝、宿の部屋の中。メグは適当に新聞で情報を集めていた。無駄な世間話の数々。

 メグが見たいのはそんなゴシップではない。見たいのは『広告』だ。

「……なるほどね」

 メグの視線の先には『力自慢の戦士、1日5000ゴールドで護衛』とか『エルフ派遣。話し相手から家事代行まで』と言った文字。

 とりあえず、生きていくためにはなにか食い扶持を探さなければいけない。

 チームを介さずに、自分で仕事を集める。やや難易度は高いが、今のメグにはこれしかないと思った。

 ただ……そうなると心配なのが、キャリアだ。〈蒼鷹の牙〉の名前は使えない。無名なメグに、金を出す人などいない。

 メグ自身が、そのことを一番わかっていた。だが……

「やるしかない、か」

 宿の中で、メグはそうぼそりと呟いた。

 結局、メグはその日のうちに新聞屋へ向かい、色々制度を利用して広告を出した。

 新聞屋がこっそり教えてくれた『相場』よりかなり低い額を広告には出した。そのおかげで、依頼は案外すぐに来た。

 モンスターたちから、村を護衛する。メグは〈蒼鷹の牙〉に所属していた時も、似たようなことをやったことがある。

 ただ今回は、自分がピンチになった時に助けてくれる仲間が1人もいないのだが。


◇◇◇


 羽付きの悪魔をうまく使い、当日中に村までたどり着く。私は村長さんに挨拶をしようとした。

 田舎なら田舎なりに、暖炉や絵画が置かれた豪華な応接間。私はソファに座り、村長さんと向かい合う。

「あれ……あなたは、確か……〈蒼鷹の牙〉を追放された方では?」

 バレていた。ただ、メグはそこで負けるような人間ではなかった。

「……どこでその情報を?村長さん」

「いえ、村に情報通がいまして。そいつが、あなたが広場で追放されるところを見たと」

 あの広場はかなり大きい。おそらく、メグはかなりの人間に見られたのだろう。

 メグは少しだけ涙を堪え、強がる態度を取った。

「不安なら、キャンセルなさってもいいんですよ?村長さん」

「い……いえいえ!元・〈蒼鷹の牙〉の人間をこんな安値で雇えるなんて、幸いです」

 そう言われても、メグはちっとも嬉しくなかった。

 メグはひとまず打ち合わせを終えて、応接間を去ろうとする。村長が小声で言った。

「……安物買いの銭失い、か」

 そう言われ、メグの心に確実に『何か』が刺さった。

 メグはひとまず、用意された宿にたどり着いた。昨日までの宿より、数段奇麗な部屋。奇麗なベッド。

 その中で――――メグは、しばらく泣いた。

「……仕方ないだろ、そんなこと言われたって!」

 メグの脳裏に、これまでの戦いがフラッシュバックする。

 かつての仲間たちと過ごした日々。魔獣を囲んで作戦を練った夜。勝利のあと、焚き火を囲んで笑い合った時間。

 カイルが不器用に褒めてくれた、あの一言。

「……あんなの、もう二度とないんだよね」

 何が悪かったのか。どうして仲間の邪魔になってしまったのか。そう考えると、止まらなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る