【短期集中連載・完結保証】追放された少女、孤独を楽しむ。

日奉 奏

第1話

 灰色の空の下、石造りの広場に冷たい風が吹き抜ける。チーム〈蒼鷹の牙〉の面々が集まり、1人の少女を囲む。

 悪魔使いの柊メグはどこか困惑した目つきであった。

「……メグ。お前には、今日限りでチームを抜けてもらう」

 リーダーの青年・カイルが、感情を抑えた声で告げた。

 彼の背後には、他のメンバーたちが無言で並んでいる。誰一人、メグの方を見ようとしない。

「え……? ちょっと待って。昨日の戦闘で、私が遅れたのは――」

「遅れただけじゃない。お前の召喚した悪魔が、味方の動きを妨げた。あれがなければ、もっと早く終わっていた」

「でも、それって……ほんの数秒の話でしょ? 私、ちゃんと指示も聞いてたし……!」

 メグの声は震えていた。言い訳ではない。事実を伝えようとしているだけなのに、誰も耳を貸さない。

「些細なミスでも、命取りになる。それが戦場だ。お前には、チームの足を引っ張ることしかできない」

「そ、そんな……!」

 カイルの言葉は冷酷だった。だが、その目の奥には、どこか苛立ちと私怨の色が混じっていた。

 メグは気づいていた。カイルが、自分を『見せしめ』にすることで、些細なミスを『無くそう』としていることを。

 チーム〈蒼鷹の牙〉は、50人近い構成員を保持する大規模チーム。メグのような『見せしめ』は、必要なのだ。

「……分かり、ました」

 実際、メグがミスをしたのは事実であった。

 わずかな時間だとは言え『些細なミスでも、命取りになる』のはある種の真理だ。

 しかし――――メグのミスの合計と、カイルのミスの合計。この数字だけで見れば、圧倒的にメグの方が優秀であった。

 むしろ、メグを見ている他の面々……弓使いやら、盾使いやら、聖騎士たちの方がミスは多い。

 ならなぜメグが狙われたのか――――メグが、14歳の少女だからだ。社会的に、彼らに勝てないからだ。

「……退職金は既定の額より少なくていいな?これは『懲戒免職』だからな」

「……はい」

 メグは魔導書を抱きしめ、ゆっくりと背を向けた。誰も引き止めない。誰も言葉をかけない。

 石畳を踏みしめる足音だけが、広場に響いた。


◇◇◇


 直後、メグは既定の1/20程度の退職金を持って宿に来ていた。この程度の金では、一番下のグレードで一泊がやっとだろう。

 宿の部屋に入り、魔道トーチを点ける。暗い部屋が多少は明るくなった。

 それと同時に、蜘蛛の巣や前の客がこぼしたポーションなども良く見えるようになった。かなり汚い部屋だ。

「……ま、この程度か」

 メグはとにかく、どうしようか考えていた。チームから追放されたことは、キャリアにかなり痛手だ。

 おそらく、再雇用先はないだろう。

「……じゃあどうすりゃいいんだよ、だるすぎる」

 絶望の淵にいる、それが今のメグだ。メグはとりあえず、食事を摂ることにした。

 外に出て、適当な草原に向かう。草花ばかりで、見晴らしは良い。メグは、すぐにモンスターを見つけた。

「……『パスカル』か」

 炎をまとった4足歩行の巨獣が唸りながら進む。周囲の草花を燃やしながら、メグの下へ向かう。

「……来るなら来なよ。こっちも、準備はできてるから」

 メグは一人、焼けた地面に立ち、魔導書を開いた。ページが風にめくれ、彼女の指がある一節に触れる。

 メグが単独で戦うのは、久しぶりである。

「契約に従い、我が声に応えよ――《第七の環より這い出でし影、アスモデウス!》」

 メグの前に紫の魔法陣が現れ、その中心から『悪魔』が現れた。

 二足歩行であり、人の形をしてはいるが、顔は無く、服も着ていない。まさしく『影』と呼ぶべき姿だろう。

 メグはそのまま指示を続ける。

「アスモデウス、前へ!」

 メグは周囲を確認しようとして……やめた。巻き添えを心配すべき『仲間』は、既にメグにはいないからだ。

 燃え盛る獣・パスカルは咆哮し、炎の塊を吐き出す。だが、アスモデウスは腕を使い軽々と、それを払いのけた。

「よしっ!アスモデウス、攻撃!」

 その直後、アスモデウスは拳でパスカルを攻撃する。瞬間、パスカルの体は空中に吹っ飛んだ。

 メグは確信する。この獣は、もうすぐ死ぬと。

「……やばっ!」

 瞬間、メグは絶望する。これでは自分がとどめを刺したことになる。先輩たちのメンツが……いや、待てよ。と、メグは考え直す。

 メグはついさっき、追放された際のことを思い出していた。あの時点で、先輩も上司もメグの世界から消えた。

「……だったら、これくらいっ!」

 メグはダメ押しに、自分の得意技であり、自分の好きな技を詠唱する。

「《魂喰らいの糸》!」

 メグが詠唱を終えると同時に、糸が空中から現れ、パスカルの首に絡みつく。

 そして――――パスカルの首は、その糸によって切断された。胴体と頭はそれぞれ別の場所に着地する。

 パスカルの体を囲っていた火は消え、こんがり焼けた肉だけがそこに残った。

「……美味しそっ」

 そんな風にして、メグはパスカルの胴体に近寄る。食べ物を買うお金がない以上、自給自足しかない。

 そしてその自給自足の過程で――――メグは、どこか『やりやすさ』を感じていた。

「……うん?」

 しかし、メグ本人はその『やりやすさ』の理由に、まだ気づいていなかった。

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