第2話 怪しい馬車

 私とジレンは宿をはなれ、死者が蘇るという噂のある、イロノ村へ向かうことにした。

 ちなみに、金は宿代にする節約のために移動は乗り物でなく徒歩である。


「それでジレン様。今日はどんな呪いをお持ちで?」

「おい、俺が毎日呪いにかかるバカだと言いたいのか」

「いえ。ジレン様は、お金をもろくに持ってないくせに、毎日トラブルばかり持ってくるような勇者様ですので」

「それはすまない」 

「でしょ?」  


 この会話は初めてではない。

 数十回目である。


「その呪いについてだが、村の人に話を聞いたところ、どうやらあの村を訪れた日から毎日悪夢を見るようになるらしいんだ」 

「ほう。なるほど」

(だから、あんな辛そうにしてたのか)

「なるほど…?」


 ジレンは私の何かに納得した様子を見て、不思議そうにしていた。どうやら自分の今日の顔つきや態度が変わっていることに気づいていないらしい。


 私はさっきまでのちょっとした心配を忘れるかのように、気を緩め、ジレンを早足で抜かし、振り返った。


「良かったー。その呪いが病や死の呪いだったらどうしようかと思いましたよ。どうします、悪夢くらいなら毎日見てもジレン様なら大丈夫でしょう。今日はやはりギルドへ!」


 私は、足の向きを180°変え、ギルドへと向かおうとした。

 しかし、ジレンは立ち止まったままだった。


「いや、クロノ。今日行って終わらせよう。  

 最悪の場合は徹夜覚悟だ。

 あの悪夢の噂は本当だった。

 それにしても昨日の夢はもう…」


 どうやら昨日見た悪夢がとても怖かったのだろう。

 ジレンの気はますます暗くなるばかりだった。


「そうですね。私もジレン様がいないと動けない身。

 ジレン様。さっさと行って終わらせましょうか!」

「おっ、クロノ。いいのか?」

「もちろん。私はジレン様と共に生きると決めているので」

「そうか、助かるな…」


 ジレンは顔を上げ、私に見せたその瞳はいつものジレン様に戻っていた。


「よし、じゃあ気を取り直して行こうか。俺の呪いを解くためにイロノ村へ」

「はい! 行きましょう」

 

 私とジレンは、森を抜けた先にあると言われているイロノ村へと向かった。


 ◇◇◇


「はぁはぁ。ジレン様、まだイロノ村にたどり着かないのですか…」

「そうだな。もうすぐ森の中へ入る頃だろう。あと数時間の辛抱だな」

「ひぇー」


 私たちがいた街「ジュラ」を出てから1時間が経った。

 未だに着く気配がなく、日頃特に運動をしていない魔法使いの私にとっては大変だった。

 それに昨日の筋肉痛が響く。


「そろそろジレン様。休憩でも…」

「クロノ。森から馬車がくるぞ」

     

 そろそろ休憩でもしようかと思って、近くの石に寄りかかろうとしたそのとき、目の前に馬車のような影が近づいて見えた。

 近づくにつれて「おーい。乗せてやろうかー!」と手を降っているのに分かり、次第に距離は縮まる。馬車を運転する赤の帽子をした少し服装は汚れているおじさんは私たちの目の前で馬車を止めた。


「そこの旅人さんよ。おれの馬車にでも乗らねぇかい?」


 馬車の中は人を乗せることができるスペースがおじさんの後ろに4人分はあった。普段から人を乗せているのか、馬車の中はとても清潔そうに見えた。

 

「どうするクロノ。乗るか? 金ならこの森を抜けるぐらいは持ってきたつもりだ」

「ジレン様、村で生活する金は?」

「すまん。ない」


 それを聞いたおじさんは、怪しそうにニヤリとした。


「別に金なんか取らねぇさ。この先は魔物が山程でるっていう噂があってな。あぶねぇだろ?」

 

 怪しい。この先魔物がでる森だとは聞いたことがない。

   

 私は怪しそうにするも、ジレンはますます乗る気まんまんだった。


「無料?! いいのか、それじゃおっさんの商売は成り立たないだろ?」


 それを聞いたおじさんは涙を流し始めた。


「お前さん…優しいなぁ。おれはただお前さんのようなカッコよくて優しい旅人を助けたいだけなんだ。本当は騙して違うところで降ろしてやりたいところなんだが、お前さんは騙せやしないなぁ」


 それを聞いたジレンも何故か涙を流す。


「ぅぐすっ、、俺、こんな優しいおっさんに出会ったの初めてだ… 俺もこんなおっさんになりてぇなぁ」


 私はいかにも怪しいおじさんに泣くジレンを見て、ため息をこぼした。

 こんな誰に対しても優しさを持つジレンだからこそ、毎日のようにトラブルごとも持ってくるのだろう。

 別にありがたくもないが。


「よし。じゃあ旅人さんたち。おれの馬車にでも乗ってくれ。今回はおれの負けだ。無料で行き先まで連れて行ってやるよ」


 おじさんは涙を拭き、馬車に乗れるように扉を開けた。

 

「おう。ありがとうな。おっさん」


 ジレンはなんの疑いもなく、おじさんの馬車に乗った。

 そして、お前も乗れと言うかのように、目を合わせてくる。


「ほら、お姉さんもおれの馬車へ乗ってくれ。魔法使いは杖が重いと聞くからな。疲れただろ」

「お姉さん? 私こう見えて120歳なんだけど?」


 魔法使いは魔力があるおかげで寿命が平均200歳と言われており、人間は80歳が平均。つまり、このおじさんは見た目では私よりも老けて見えるが年下だと分かっていた。


「すまねぇ、魔法使いさん。そうだったな、魔法使いはおれたち人間よりも長生きするんだったよな。ほら、そんなことより早く馬車に乗らないと色々と遅れるんじゃねぇのか?」


(はぁ。このおじさん明らかに怪しいんだよなぁ。無料には必ず裏があって当たり前だし。さすがにジレン様も気づいているか)


「分かりました。おじさんを信じましょう」


 私はジレンの手を借りながら、馬車に乗った。


「おっしゃー。旅人さんたち。どこが目的地なんだい?」

「この森を抜けた先、イロノ村まで頼む」


 おじさんはポケットに入っていた地図に印をとり、出発の準備をした。


「よし。イロノ村だな。行ったことねぇ、村だが大丈夫だろ。1時間ほどで着く、オッケーか?」


「ああ。よろしく頼む」


 こうして、私とジレンは怪しいおじさんとともに、馬車でイロノ村へと向かった。

 

 

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