第3話 策士

 馬車に乗って数十分が経過した頃だろうか。

 まだ森の中に終わりは見えず、景色も暗いままである。


「おじさん。イロノ村まで結構遠いんですね」

「そりゃな。ここは魔物が出る森なんだ。だから魔物がいねぇルートをひたすら遠回りして向かっているってわけさ」

「なるほど…」


 それに比べては、魔物が出るくせにおじさんの服装はとても弱そうで、いざ魔物と出会ったら戦えそうでもない。

 そしておじさんの横に置いてある袋には、薬品と思われるものがたくさん入っていた。回復薬や火炎瓶、魔力上昇効果のあるポーションなど、どれも割れやすいものばかりだった。

 

「そうだ魔法使いさん」

「なんですか?」

「お前さんの魔法は何が得意なんだ? 火とか水、土とか色々あんだろ」


 さっきまでジレンと数十分も話していたが、話す内容がなくなったのか、次は私のターンになった。

 ちなみにジレンとおじさんは「モテる勇者になるには」「結局女を惚れさせるには何が必要か」とか私にはとても興味がないことばかりだった。


「そうですね。私は魔法使いなんですけど、主に近接が得意ですね。あまり魔法が得意ではないもので。なので、この勇者ジレン様と一緒に旅をしているんです。まぁ、いつもトラブルばかり持ってくるんですが」

「へぇ。近接の魔法使いか。そりゃあ面白いな。おれ生まれて60年だが、近接が得意な魔法使いなんて聞いたことも見たこともないぞ」

「よく言われます」


 とりあえず嘘を言ってみたが、おじさんは気づいていなさそうだった。

 そしてジレンはというと、私の事情を知っていることもあり、「何いってんだお前」みたいな顔をしている。 


「それにしてもあれか。お前さんたちの旅の目的は魔王討伐とかそういった感じか」


 おじさんは振り返り、ジレンに聞いた。

 さっきからのしょうもない話に比べ、私たちの事情を聞き出すことが増えてきた気がする。


「そうだな。魔王討伐はいつかしてみたいものだが、他の勇者たちだって皆がそう思っているだろう。俺は会いたい人に会うためかもしれないな」


 ジレンの会いたい人は詳しくは知らないが、たまに話をしてくることがある。

 ジレンが小さい頃、魔物に襲われそうになったときに助けてもらったことがある旅人らしく、ジレンはその日からその人に憧れて、たくさん訓練し、たくさん強くなった。

 しかし、旅人の噂は調べても聞いたこともなく、本当に存在しているのだろうか、ジレンの夢だったかもしれないくらい未知な人なのである。


「会いたい人か。お前さん、カッコいいな。他の勇者さんたちもこの質問をしてみたら皆魔王だ魔王だとかいって、本当の魔王の強さなんて知らないくせに何言ってんだって話さ」

「裏切りの黒髪魔法使い、2代目魔王スペル・ヴァイン。魔物と違って魔法使いだから苦手がないのが勇者たちにとって倒しづらいんだろう」

「まぁそうだろうな」


 魔王スペル・ヴァインは、昔、魔法使いの生まれの村「アンダーウィッチ村」で普通の魔法使いは髪色がカラフルなものになっているはずだが、黒髪の魔法使いとして異例な形として生まれた。

 そして、魔法使いの中において黒髪であることは未だに存在せず、黒髪であることが原因なのか分からないが、魔力は一般の魔法使いと比べ数十倍に及ぶものであったが、魔法を使うことができなかった。

 しかし、後にこの世において最強で最悪である禁忌の書との出会いが彼を狂わせることとなり、今では魔物を作り出す能力やさまざまな未知なる能力を保持していると言われている。


「そろそろ到着する頃だろう。馬車に降りる準備でも…」


 おじさんがそう言ったときだった。


「クロノ、おっさん! 魔物だ。絶対馬車を降りるなよ」


 何も無い地面から魔物が数体飛び出してきた。

 

「う、うそだろ! この場所に魔物は存在しないはずだ」


 おじさんは驚いた表情をして、先頭から私のところへ下がってきた。

 そしてジレンは剣を抜いた。


「いいか! クロノはおっさんを必死に守れ! 俺は外で魔物たちを相手する!」


 ジレンは馬車を降り、私は杖を力強く構えた。

 魔物はどれも夜にしか出ないはずのものばかりだったが、森の中ということもあって、常に夜の暗さだったのだろう。

 

「クソっ、こいつら無限に湧いてくるのか?!」


 ジレンは剣で次々に魔物を倒すが、1体また1体と次から次へと魔物が湧いていた。


「ひゃぁあ!」

「おじさんは私が守るので安心してください!」


 杖で魔物を追い払っていく。

 馬も必死に暴れようとするが、いつの間にか地面が泥になり、足を抜け出すのに必死だった。

 

「ジレン様! このままでは埒が明きません! 逃げるのが選択のうちです!」


 私はジレンに大声でそう投げかける。


「ああ! そうだな。おっさん! 出発の準備だ! どこでもいい!」

「わ、分かった! それと良い案がある。おりゃあ!」


 するとおじさんは席においてあった袋の中にある全てのポーションを魔物たちに投げ捨てた。

 

 グゥゥゥゥゥギャァァァァァァァ!!


 ポーションを浴びた魔物たちはなぜか燃えながら灰となり、周り全てが炎に囲まれた。

 

「効いてる! いいぞおっさん!」 

 

 その間にジレンは馬車に乗る。


「よし、このぐらいの炎なら馬だって行けるはずだ。そうだろ? お前たち!」


 ヒヒーン!


 馬は大きく足を上げ、泥、炎を軽々しく飛び越え、なんとか魔物がいるゾーンから抜け出すことが出来た。



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勇者様はトラブルメーカーなので困っています!! @ichiwalu1

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