勇者様はトラブルメーカーなので困っています!!

@ichiwalu1

第1話 不安定な日常

「朝だよ孫たち! ごはんを食べに来なさい!」

「んっ…… うーんっ」  


 下の階から聞こえる宿主であるカレジューナのガラガラとした声で目覚め、分厚い布団を足で吹き飛ばし、目を閉じたまま身体を動かす。


「もう…朝か。・・・いたっ」

(そうだった。床に色々置きっぱだった…)


 本で山になっていたところをよじ登り、なんとかして部屋の窓を開けた。


 空は海を映し出すように青く、街はいつも通り賑わっている。そして魔物狩りを終えたのか大勢のパーティがギルドの方へ向かってくるように見えた。

 

(ふぁーあ。 また眠くなってきたな… しかも筋肉痛…)


 筋肉痛は昨日のせいだろうか。

 それにしても人間は朝に風を浴びれば目が覚めるというくせに、また眠気が襲ってきた。


「寝よ」


 流れるように、私は窓を閉め、また布団の中に入る。


(やっぱまだ疲れてるんだ。昨日のせいだよきっと)  


 なんてことを思いながら目を閉じようとしたとき、力強い足音が近づいて来るのが聞こえた。


(もう少し寝たい……)


「おらぁ! 何ずっとごちゃごちゃ寝てるんだい!

 孫たちは皆食卓に着いたってのに、いい加減にしないと宿代2倍で取ってやるからね!」 


「に、2倍?! ごめんなさい! 今すぐ向かいます!」


 私は分厚い布団を吹き飛ばし、素早く近くにあった魔法の杖を手にして、慌てて一階へと降りていった。


 ◇◇◇


 階段を降りた先には、既に食べ終わった人、洗い物を洗っている人、洗濯物をしている人がいた。

 

「おっ、クロノじゃん。やっと起きたんだ」

「昨日は忙しかったらしいね。お疲れ様」

「おかげで筋肉痛だし、眠たいよ」


 木の椅子に座ろうとした私にそう言ったのは、ここの宿主であるカレジューナの孫であり兄弟のサガンとコーリだ。

 一ヶ月前に私が泊まることになったのに、既に慣れ親しんでおり、私が住んでいる故郷についての話を、旅から帰ってくる私によく聞きたがる。


 今日の朝ご飯は薬草だった。

 相変わらず宿代が安いので料理もそれなりのものが出てくる。 

 だけど、カレジューナが料理してくれた薬草は、なんだろう。おそらく調味料が良いのだろうか、いつも旅で食べる薬草は瞬発的に吐き出すレベルなのに、苦いけど謎の美味しさがあった。  


 薬草をむしゃくしゃと食べる私に、カレジューナは昨日を思い返すように呟いた。

 

「そうねぇ、クロノ。

 昨日は朝ごはん食べた後に、トラブルだったわね」

 

 私は薬草を食べるのをやめ、軽く口を布で拭き、フォークを置いた。  


「それで、どうだったんだい。昨日の件は」


「そうですね… まあいつも通りというか。どうせあの人は今日も来るんですよ。「すまねぇ」とか言って」


 カレジューナはガサガサな声で心配するくらいに大きな声で笑った。

 朝で寝起きということもあり、その高い声が耳に響いて頭が痛い。


「そうかい、そうかい。あんたのとこの勇者は大変ね」

「はい… 昨日はジレン様が落とし物を拾ったとか言って、それが1万もする大物だったので、街中いや遠出までして探しましたよ。そして道中に魔物もいて、持ち主に渡してここに帰る頃には日は沈むどころか、また上がりだすときでしたね」

「一万! うちの宿を何ヶ月…いや何年も泊まれる額じゃないか」

「そうなりますね」


 ここの宿「プライス」では、1日限定宿泊で食事代付きというのに10ジュラークという、この街随一の格安宿である。

 しかし、3人以上のパーティではギルドが手配する無料の宿があり、ここの宿はギルドのすぐ近くにあるため、あまり人気がない知る人が知る宿となってしまった。

 

 そんな中、私はジレンと2人で旅をしているということもあり、無料で宿は泊まれなかった。

 ジレンは実家の宿が近くにあるため実家の床で寝て、私は実家が遠いこともあり、ジレンが「クロノは床に寝らせられない」という優しさもあり有料宿になった。

 そしてここの宿主であるカレジューナがジレンに以前救われたことがあるとかないとかで、1日宿泊限定のところを無制限にしてくれ、金欠の2人はこうして旅ができているのであった。

 そういう点はジレンにいつも感謝しているのだが……


「ごちそうさまでした」

「おっ、今日も完食かい。ありがたいねぇ」 


 薬草だけだったので、話して気がつけば既に食べ終わっていた。

 正直、お腹はいつも満たされていない空腹状態。  

 街に出て、店で食べるのもいいのだが、今はここに住んでいることから分かるように金がない。

 勇者はタダでトラブルを持ち帰ってくるため、私の手持ちの金は増えるところか減るところなのだ。

 

「そうだクロノ。今日は何をするんだい?」

「そうですね。特にすることがないので、勇者と共にギルドで稼ごうかと」

「おっ、やっと稼いでくれるかい。孫たちは稼ごうともしないから宿も経営が厳しいんだ」

「分かりました。行ってきます」

  

 私一人では力にならない役立たずのため、ジレンと共に行かなければギルドでの依頼は上手くいかない。

 ジレンと出会ったあの日。

 私を誰も仲間と必要としないときに、仲間として受け入れてくれたあのとき。 

 今のジレンには本当に感謝しきれないほど、感謝をしている。

 だから私は、その依頼やトラブルがたとえタダだとしてもジレンの悩みには相談に乗るし、一生懸命に助ける。


(よし。今日こそギルドへ!)

 

 私はジレンの住んでいる宿へ向かうため、服を着替え、歯を磨き、髪を整え、顔のチェックをし、宿を出ようとした。


 宿の扉を開こうとしたそのとき、向こうからも扉が開いた。

 

(あれ? お客さんかな)

 

 なんて思って後ろに下がると、目の前には見たことのある靴、服装、剣、そして顔。

 私の勇者、ジレンだった。


「おっ、おう。クロノ。朝早いんだな」


 いや昨日もそうだったでしょとツッコミたかったが、なにやらジレンの様子が変だ。いつもより暗い表情で申し訳なさそうに下ばかり見て、私と目が合わない。


「おはようございます。ジレン様」

「おはよう。ところでなんだが…」


 この瞬間、私は全てを察した。

  

 また、トラブルを持ってきたのだと。


「実はな…」  

「ジ、ジレン様! 今日はギルドでも!」

「いや…そんなことよりも、すまねぇ」

「今日はギルドで魔物狩りを終えた人達を見て!」

「あぁ。そうなんだ。ところでさ」

「今日はいい天気ですねー!」


 ジレンは私の言葉を耳にせず、話を続けた。

 

「とある村で死者が蘇るっていう噂があったから、夜に1人で行ってみたのだが、どうやら俺は呪われたらしいんだ」


「えっ?」


「すまん。今日もギルドはお預けだ」


 私はジレンの背中を力強く押して、扉の外まで追いやり、大声で叫ぶ。


「んーっ、もう! なんでジレン様はいつもトラブルばかり持ってくるんですか!」


 これが私と勇者なのにトラブルばかり持ってくるジレンとの日常なのだ。


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