異変
停電が復旧したのは、三日後だった。
雨は降りやまず、携帯の充電も出来ないまま
ゴールデンウィークが終わってしまった。
──予習が進んだから、良いって思っておこう。
うん、前向きに考えよう、と自分に言い聞かせて身支度を整えた。
千穂の家──もう使っていない離れには、曾祖父母の頃の薪ボイラーで沸かせるお風呂があった。
なので、かろうじて風呂は入ることが出来ていたのが幸いだ。
放置していた薪が湿気のせいで中々点火しない、と父親がぶつぶつ文句を言っていたけれど。
雨は幾分小降りにはなってきていたものの、相変わらずで。
千穂は風が強いので傘は断念して、不本意ながら長靴とカッパという出で立ちで登校した。
「──おはよう」
教室には、タカミオだけ。
「停電凄かったな、千穂の家は大丈夫だった?」
「うん、どうにか乗りきったよ、携帯の充電出来なかったのが困ったけど」
「あー、うちが借りてる家は発電装置あってさ、そこは平気だったけど。千穂の既読つかないから、気になってさぁ」
千穂は自分の顔が赤くなっていくのを感じた。
──音が出たんじゃないかと、思うくらい。
あわてて教科書を出す振りをして誤魔化した。
「夜中に復旧したの知らなくて、今朝も充電出来てなかったの」
「──ああ、そういうつもりじゃなくて。ただ、大丈夫かなってだけ」
「うん、ありがとう。そっちはどうだった?」
「うちは雨がヤバいって事で、叔父さんが爺ちゃんと婆ちゃん迎えに行ってさ、人が増えたからなんだか忙しかったよ」
「土砂崩れあるかもだしね、こっち来た方が絶対いいよね」
その後は自然に会話が続き、ゴールデンウィーク明けの登校は──ちょっぴり甘酸っぱいような気分で始まった。
いつも通り、遅刻ギリギリで騒がしく木下君と澤田君が飛び込んできた。
澤田君が周囲に教えられ、千穂の斜め前の自分の席に──バタバタと座った。
(相変わらず、ドタバタコンビだね)
「よう、千穂久しぶり──」
「────ミツケタァ」
「──元気だったかぁ?」
千穂は固まったまま、澤田君を凝視した。
──今、何て言った?
澤田君の声じゃ、ない。
千穂の喉は、くっついたかのように声を出せなくなった。
「────ぁ」
ようやく、小さな声を絞り出した瞬間。
パァン!!
大きな音をたてて教室の窓が割れ、窓際にいたクラスメイト達の周囲ににガラスの破片が散らばった。
大騒ぎになった教室に、纏わりつくような気味の悪い生温い風が吹き──千穂の周囲をぐるぐると渦のように廻って、そのまま気配を消した。
「やだ、なんなの?」
「血が出てる──保健室行かないと!」
クラスメイトの叫ぶ声は、どこか遠くに聞こえ──ハッと気が付くと、千穂は両手の拳をギュッと握ったまま、椅子から動けないでいた。
澤田君は、怪我をしたクラスメイトのもとに行き、以前と変わらず話しながら片付けを手伝い始めた。
千穂はフゥ、と息を吐き出し震える手をそっと擦り合わせた。
(私だけ、しか聞こえてない……?)
澤田君、じゃない。
────あの声は。
誰の声でもなかった──
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