雷雨


いっぱい整理しなきゃいけない事があるのは、わかってる。


でも、今日千穂はちょっとだけ戦って、継母と自分に勝ったのだ。

この小さな勝利が、千穂の不安を優しく包んでくれた。


──今までが、受け身過ぎたんだ。

千穂がおどおど、逃げ回っていたからだ。

祖母がいなくなってから、千穂は異物だった。

いままでそれに甘んじてたけど、泣き寝入りしても良いことなんて、何もなかった気がする。


──威張ったり、ワガママ言うつもりはないけど、嫌なことは嫌って言えるようにならないとだ。


バラバラと叩きつける雨は、どこか陽気なリズムで千穂をリラックスさせてくれた。

雷鳴さえ、心地よく感じる。


久しぶりにノートを開くと、整理した方いいかな?というメモ書きが多い。

確認すべきことを再度ピックアップかな?


千穂は、お気に入りのシャープペンを取り出し、ゆっくりとノートを広げた。


・澤田君ー退院、夢遊病?裏山の話ー聞く

・優子ーお兄さんー聞けそうなら。

・文献ー2代目?家系図、斎藤のおばちゃんの家にある?

・斎藤のおばちゃんー祖母の従姉妹、祖母の荷物がある?

・夢

・蛇


この時、一際大きな雷鳴が轟き、電灯がチラチラしたかと思った瞬間、不意に暗闇が訪れた。


──停電?


千穂は窓際へ行き、外を見てみた。

真っ暗だ。

いつもなら、少ないながらも街灯や民家の明かりが見えるはず。


やっぱり、停電だ。

玄関に幾つか懐中電灯があったはず。

千穂が部屋から出ようと身体の向きを変えた時、窓の外を何かが横切った。


え?と思って外を凝視したが、あるのは大粒の雨だけ。

この強風だから、どこかのゴミが飛んで来たのかな?

スーパーの袋とか、そんなの。

ここ二階だし、飛んできたもの以外は考えられない。


千穂は窓の鍵がちゃんと施錠されているのを確認し、階下へ懐中電灯を取りに行った。

リビング前を通り過ぎて、父親と鉢合わせした。


「おう、今持っていってやろうと思ってたんだ」


父親は千穂に懐中電灯を手渡し、リビングへ行けと促した。

千穂もなんだか不安だったし、おとなしく父親指示に従うことにした。


継母は泣き叫ぶ龍巳をあやしており、愛梨も自室から出てきて怒っていた。


「信じらんない!もうちょっとで勝てそうだったのに、停電とか!それに──」


ゲームでもしてたのかな。

愛梨はゲームばっかりで、不安にならないのかな。

ずーっと家にいる方がしんどいし、大人になってもこの田舎にいなきゃいけないなんて、私は嫌だけど……。

愛梨には居心地のいい家、なんだろうな。


「それに、物音がした!絶対外に誰かいるって!」


「そんな大声出さないでちょうだい。こんな雨と風の中、しかも私有地に誰か入ってくるわけないでしょう。ホントに見たの?」


「見てないけど、音がしたもん!ホントなんだってば!絶対誰か──」


「わかったわかった、俺が見てきてやるよ」


父親が心底めんどくさそうな声で、愛梨の口を閉じさせた。


雨合羽を着て外を見てきた父親が、愛梨に言った。


「どっかから飛んできた、でっかい段ボールが窓の前に落ちてたぞ。真っ暗だったしな、俺も子供の頃、飛んできたもの見てビビったことあったわ」


「なんだ……ホントびっくりしたのに」


愛梨は安心したように、ソファーに腰を下ろした。


うん、やっぱりあちこちから物が飛んで来てるんだね。

千穂も口には出さなかったが、とても安心した気持ちになった。


結局電気は復旧せず、懐中電灯を持って部屋に戻り、千穂はさっさと眠ることにした。


──ん?あんなに真っ暗だったのに、なんで私は"何か飛んできた"のが見えたの?


千穂は懐中電灯を握りしめ、布団の中で丸まった。


この夜は──屋根を叩く雨の音だけが、ずっと響いていた。


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