古い文献


「うわ、今日はホントに風が強いな。ここで開けたら散らばっちゃいそうだし──雨が降りそうだ」


尻餅をついた千穂を起こし、タカミオは木箱にしっかり蓋をした。


「これ、持って帰るけど、明日一緒に見よう。おじさんが借りた家、空き家だったけどまぁまぁ広いからさ」


空はどんどん暗くなり、タカミオは近くて良かった、と走って帰っていった。

多分二、三分くらいで家に入れるだろう。


────ポツリ。


頬に水滴を感じた千穂も、慌てて母屋に飛び込んだ。


お婆ちゃんが亡くなってから、初めて降る雨だ。

四ヶ月ぶりかな?

もう、そんなに経ってるんだ───


次第に雨は叩き付けるような激しいものに変わり、雷鳴も轟きだした。


──久しぶりの雨が豪雨って。


「全く、今日はひどい天気ね。ゴールデンウィークなのに、どこにも行けないなんて」


継母がぶつぶつと文句を言っている。


「さすがに天気はどうしようもないな。あと二日あるから、晴れたらドライブでも行くか?」


「見てよ、あの雲。真っ黒じゃない」


「地震、家鳴り、雷!ふっきつぅー!」


「愛梨!そういうのやめて!」


愛梨は急にまたムスっとして、部屋に閉じ籠った。


「千穂、友達は帰ったのか」


「うん、2つ隣の空き家だったとこだから」


「ああ、古滝にいる高橋の爺さんの」


「知ってるの?」


父親はチラリと周囲を確認した。

継母は丁度キッチンにお茶をとりに行っている。


「高橋の爺さんは、お前の母さんが嫁に来たときに引っ越し手伝ってくれた人だぞ。同じ村だったからな」


「え、同じ村って古滝──」


「ちゃうちゃう、巳沢村から、だ。お前の母さんはあの村の巫女さんだったから、巳沢ってんだよ。婆さん──お婆ちゃんの強いプッシュでな、お見合いしたんだよ。可愛かったぞー、今の千穂にそっくりだった」


父親は母についてまだ教えてくれそうだったのに、継母がお茶を持って戻ってきた。


お話はもうおしまい。


継母が嫌がる気持ちもわからないではないけれど、千穂の母の話を千穂が聞いて何が悪いのか。

おどおどするのは、もうやめよう。

千穂は、顔を上げて義母を見た。


義母は少し驚いたようだが、スッと目を逸らして急須から湯呑みにお茶を注ぎ始めた。


千穂は黙って自室に戻り、小さな勝利にガッツポーズをとった。


────あの箱の中身。

気になるなぁ。


窓ガラスを叩く大粒の雨。

ひっきりなしに閃光が走る空。

地響きのような雷の音は、時々バリバリと大音響で落ちてくる。


ピロン♪


携帯を見ると、RAINグループが賑わっている。

澤田君が絶好調みたい。


▶いやー、ホント夢遊病やばかったわ!全然記憶なくてさー


▶ええーっ?大丈夫なの?治ったとか?


▶うん、熱が下がったら治った!学校行くの楽しみだわ


▶普段から夢遊病だろお前


▶ひっどぉい!木下君っひどいよ!


▶ちょっと澤田君、私の真似しないでよー!


澤田君、木下君、奈緒ちゃんは楽しそうだ。

あ、タカミオだ……


▶すごい雨だね、間一髪で間に合ったよ。箱も濡れなかった。


▶良かった!近いけど大丈夫かなって思ってて。


▶風も強いし、豪雨だし。明日はやめておいた方がいいかもな。


▶そうだね。雨だけならいいけど、風と雷はね…


▶丁度今、叔父さんに手伝って貰って調べてるとこ


▶叔父さんもそういうの好きなんだね


▶うん、むしろガチ勢。俺は叔父さんの影響でこういうの好きになったんだよね


▶それは頼もしい。面白いこと書いてあったら教えて。


▶うん、とりあえず、箱の持ち主は二代目っぽいよ。二代目蔵って箱書きがあった

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