一. カナリアは鳴く


鳥の気を、害さないようにと、そっと窓の脇に身を寄せて、鳥の鳴き声に意識を置く。


誰が教えてくれたとも、学んだとも、記憶の無い懐かしい歌。

歌声を聞きつつ、私は、幼き頃の記憶の中にいた。

母の腕の中で、湯浴みを頂く私。

タオルを湯に浸し、暖かい濡れたタオルで大事に大事に、丁寧に拭われる。顔を拭いて貰い。耳の後ろを沢山の湯を含んだタオルで拭われ、額、ほう、鼻に、顎。

暖かくて気持ちが良くて。。。



お金を稼ぐことも。

食べ物を用意することも。

着る服でさえ。

未来を考えることすら、しなかった。

目が覚めて、ごはんを口に入れられ。

お腹を満たしたら眠り、目が覚めたらあやして貰い。

今の私には、未来を思図る必要の無いこの時が、一番の幸せだったのでは、と、思う情景に私はいた。


幸せって、なんだろう。。。

満たされて。。

不安がない。。

未来を考える必要がない。。

なんだろうか。。。

愛されている。。


カナリアの歌で、私は子供の頃に意識が、タイムスリップしていた。


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