小野天狗篝の奇行は止まらない

俺たちはまず、依頼人である小野天狗おのてんぐ かがり先輩の家に向かった。

「小野天狗先輩と話せるのか、俺。…なんだか、いろんな汗が出てくるな。」

「気色悪いこと言うな。」

春の生暖かい風が吹く中、幼馴染である小祭楓と談笑する。まぁ、小祭は全く笑っていないのだが…

小野天狗先輩は、我らが私立乙ノ宮高校に三年間在籍している生徒であり、柔道の黒帯を保持している超パワー系女子高生であり、一部の一年生同級生には大人気な先輩だ。そんな小野天狗先輩からの依頼は

だ。

「なんで俺達に…まったく、小野天狗先輩は馬鹿なのか?もっと通すべきところがあるだろ、ありすぎるだろう。」

「頭はよくないらしいよ。」

「はえー。どのくらいよ?」

「ミトコンドリアをフランス辺りのドリアの名前だと思ってるくらい。」

…それは馬鹿なのか?正直無知な大人なら間違えそうなラインだから判断しづらい。

「ロシアをアメリカの州のひとつだと思ってるくらい。」

…酷いくらい馬鹿なのが分かった。

気が付くと、小野天狗先輩の家に着いた。かなり普通な家だ。一軒家だ。

小祭がインターホンを鳴らすと、どたどたと足音が鳴る。

あ、この『どたどた』というのは、断じてではない。

だ。

「はっっっっっろぉぉぉぉぉ~~~!!」

なぜか英語で挨拶してくる小野天狗先輩。柔道の際のクールさは投げ飛ばされたかのように、品性の欠片もなく天井から飛び込んでくる。この距離から飛び乗られたらひ弱な小祭は死んでしまうぞ小野天狗先輩と伝えたかったが、

…あ、これを言うのを忘れていた。

小野天狗先輩は俺に飛び込んできた。

受け止めるにしても、俺が今の状態の小野天狗先輩のダイブを受けてしまったら、受け手になってしまったのならば、俺は確実に変態野郎と罵倒され、ゴミ同然の扱いを受け入れなければならないだろう。

ならばどうする?

……

結果俺は小野天狗先輩の挨拶裸ダイブをブチ避けた。全力で。小野天狗先輩はすぐ受け身をとったが、受けなかった、全力で横に飛び込んだ俺は受け身をとれずずっこけた。

家の中に上げてもらい、机に座った。両親は買い物らしく、小野天狗先輩の弟くんは気を遣って外に行ってくれたらしい。弟君はこんな姉をもって、いろいろ歪まないのだろうか。

推定9メートルほどの天井から(裸で)飛び込んだ小野天狗先輩は全くの無事で、少し飛び込んだだけの俺は何ヵ所かひねった。これが鍛えている量の差。そんなことを考えていると、小野天狗先輩が飲み物を持ってこちらに来た。

「いやーすまない!初対面の人で優しそうな人には、私の肉体と頑丈さを見せつけないと気が済まないんだ。」

笑いながら答える小野天狗先輩。やっと服を着た小野天狗先輩は、頭をかきながら笑顔で座る。

「アイスティーしかなかったんだが、いいか?」

「どこぞの獣ですかあなたは。今は真夏じゃないですよ。」

「?」

…どうやら小祭はらしい。

今はまだ5月だが、かなり暑い。そのため、小野天狗先輩はキャミソールとパンツのみ着ている。体のラインがはっきりと視認できる。

短い茶髪と、少し焼けた小麦色の肌。つぶらな瞳でこちらを不思議そうに見つめる。小ぶりで素晴らしい肉塊ふたつ。綺麗だが無駄がない体つき。

「…小鹿くん、そんなにじっくり何を見てるんだ?これか?」

「違います小野天狗先輩。俺は目に、記憶に焼き付けているのです。こんな美しい肉体をこんな距離で、そういうお店以外で拝める機会はもうないと思うので。そのままもう少しおっぱいを持ち上げてください。」

「おぉそうかそうか。写真撮るか?なんならキャミソールも脱いで…いててっ。やめてくれ小祭ちゃん。お腹のお肉をつままないでくれ。」

「つまめるほどお肉ないでしょ篝先輩。腹筋をつまんでるんです。」

ポケットの中のスマホは小祭に奪われてしまったため、写真が取れない…。

ちくしょう。

「あはは。いやー面白いね君は。今まで三十回くらい裸ダイブこの挨拶をしてきたけれど、避けられたのは初めてだよ。」

今までかけられた三十人のことを考えてしまう。触ったのか?触れたのか?それとも揉んだのか?…待てよ、なら…

「もしかして、小祭にも?」

「あぁ、うん。」

「して、小祭は何を?」

「それは…」

小野天狗先輩が話そうとしたタイミングで、小祭が小野天狗先輩のおっぱいを揉んで黙らせていた。入念に揉みこんでいた。

「んんっ…」

ちょっと色っぽい声出してんじゃねえよ。


「改めて、私は私立乙ノ宮高校三年生、小野天狗おのてんぐ かがりだ。篝先輩とでも呼んでくれ。よろしく頼む。」

「同じく、私立乙ノ宮高校一年生、小鹿こじか こいです。」

俺の名前を聞いた後、篝先輩は不思議そうな顔で口を聞く。

「苗字が鹿…珍しい苗字だね。」

小野天狗先輩には言われたくないが…レア苗字の塊みたいな人に言われたくはないが…

「本題に入りましょ、二人とも。」

「…あぁ、そうだな。」

一気に雰囲気が引き締まる。篝先輩は両手を膝に置き、真剣な体勢になる。

「…その前に、一つだけ。」

「?どうした小鹿くん?」

「…やっぱり、誘拐の真相解明なんて、高校生探偵俺たち程度では不適任だと思います。」

警察などを頼るべきだ…と。俺が申し上げると、彼女は笑いながら答える。

「それは、君たちがこの謎を解ける人間であると確信したからだ。今会ったばかりだが、君たちがすごい人だということを、私は知っているからな。」…まったく、買い被りすぎだ。

「それに…」

「それに?」

……

「これは、高校生探偵君たちにしか頼めないんだ。」

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