第11話 開戦



「カズ君、多分もう近くにいるよっ!気配を感じるのっ!」


詩織が後ろで声をあげた。俺からはまだ視認出来ないけれど…クソ共がいるんだろうな。



「じゃあ…詩織には、あの赤髪のリーダーを頼んでいいか?」


「うんっ。私がソイツを引き付けてる間に、カズ君が幼馴染さんを助けてあげてね。」


「ああ、必ず助ける。」


詩織を隷属化したことによって、俺もだいぶ強くなっているのが分かった。辺境伯の息子くらいなら、俺一人で充分だ。



「じゃあ…私、行ってくるね。」



詩織はそう言うと、ふわっと馬から離れ…小さな黒い翼をパタパタと羽ばたかせて、飛んでいった。



「サラ、今助けに行くから…」


詩織が行ったあと、そう自分に言い聞かせるように呟くと、馬の手綱をしっかりと掴み、速度を更に上げながら馬体を倒す。


アイツ等の前に回るために、道から逸れて草原を走って大きく迂回するためだ。


最悪…俺はアイツ等に勝てなくても、サラさえ救い出せればいいと思っている。


勝ちの目が薄ければ、そのまま逃げてしまえばいい。その時にはちゃんと逃げられるよう、詩織にはチカラを残しながら戦うように伝えてある。

目的さえ果たせれば、ゴミクズに命を賭ける必要なんかない。


きっと大丈夫。そう思いながら、馬を走らせてしばらくすると・・・


ドゴォーーーン!!っと大地を揺らすような爆発音が鳴り響いた。




ーーーーーーーーーーー



和希から離れた詩織は、ゆっくりと空を飛びながら…先方を走る馬車と漆黒の馬に乗った冒険者を、その目に捉えた。



「カズ君はあそこにいるから…もう少ししてからかなー。」


独り言を口にしながら、詩織は右手に魔力を溜めていく。チカラは正直有り余っている。


カズ君の…♡美味しかったな…♡



地獄ヘル業火ファイアを右手で創造しながら、先程の交わりを思い出して…じんわりと子宮が疼いてしまうのを詩織は感じた。


そして左手をその上にあてて、隷呪紋をゆっくりと撫でる。これがカズ君の所有物の証だということは…感覚ですぐに理解できた。


幼馴染さんを助け終わったら…カズ君に命令して貰おう。


カズ君の精だけで生きていくようにって♡

それを破れば、死ぬようにって♡



淫魔の生命の源である精を1人に依存する。それは命を委ねるということ。


それを想像して…詩織はビクビクッっと身体を震わせ…うふふっと笑った。



それからまた詩織は下を見下ろす。

カズ君は…離れて並走している自分がアイツ等と並んだら、空から魔法を放てって言ってた。


とりあえず…そろそろかな。

この一発であの男を殺せたら…カズ君喜んでくれるかなぁ…


和希に褒めて貰らえることを夢想して、口端を上げながら…詩織はその右手をゼトに向けて振り下ろした。




馬車の後ろで魔馬を走らせていたゼトは背後から微かに聞こえた不快な音を耳にして、すぐさまに後ろを振り返った。


そしてゼトの視界に映ったのは…


禍々しい炎が渦を巻くバカでかい火球



例え雑魚相手でも一瞬の油断が命取りになることがある。そのことを金等級の冒険者であるゼトはちゃんと理解していた。

だから気配感知はちゃんと張っていた。ゼトの感知範囲は上空含め半径100m程。その範囲外からの攻撃。



「ハハッ、なんだよ…コレ。誰だよ…魔法使いがいるなんて聞いてねーぞ。」


あの火球がヤバいことは瞬時に理解出来た。多分狙いは俺だろう。狂ってんな。こんなモン喰らったら、仲間の女も一緒にあの世行きだ。


とにかく…馬車を守りながら、あの火球をどうこうするなんて無理。足の遅い馬車と一緒に逃げ切れずに共倒れなんて勘弁だ。


それに魔法使い相手に距離を取って戦うなんて馬鹿げてる。火球が飛んできた方向は…



「おいっ!!馬車を全力で前に走らせろっ!死ぬぞっ!!」


ゼトはそう叫ぶと同時に馬首を返した。

そのまま魔馬の腹を足で締めると魔馬は加速していく。


そして…もう一度魔法が飛んできた方角を確認すると、そこには下品な場末の娼婦みたいな格好をした黒髪の女が空を飛んでいた。



「マジかよ…アレ…人じゃないだろ。初めて見たぜ、悪魔なんてよ。本当にいるかよ…ハハッ」


全速を出した魔馬の足は規格外に速い。あっという間に上空にいる詩織との距離を詰めた。


後ろから火球が地面に炸裂したことによる爆発音がして、空気の揺れる振動がここまで届いたが、ゼトは振り返ることは無かった。



「はぁ、とりあえず…やるだけやってみるか。ダメそうなら…サッサと逃げればいいしな。」


ゼトは、そう呟きながら背中から槍を掴み構えた。ふぅーーっと長い息を吐きながら、槍を持つ手にチカラを込める。



「…ハアッッッッ!!」


掛け声と共に槍を横薙ぎに振るった。

それと共に鋭い斬撃が詩織に向かって飛んでいく。



「ッ!?」


ゼトの行動の一部始終を観察していた詩織は、咄嗟に身体を逸らした。

淫魔となった詩織の身体能力は人の域からは、かけ離れたレベルである。だからこそ避けられた。それでも…



プシャッ!


詩織の白い二の腕から鮮血が飛んだ。擦り傷ではある。しかし確実にゼトの斬撃は詩織に傷をつけた。



ジンジンする…


久しぶりに他人から与えられた痛み。


前世で和希と再会してからは…受けるコトの無かった痛み。

それが詩織に最悪な記憶を思い出させる。


あの時は…その痛みが快感だった。

堕ちた自分に罰を与えて貰っているようで…


どんどん汚れていく自分が、カズ君に見放された自分には相応しい。


そう思って…

最後には結局…縋って、カズ君を壊した。



「もう…私を…傷付けていいのは…カズ君だけなのに…何なの…アイツ…」


ギリギリと歯軋りをして…


「殺してやる…」


顔を歪ませながら、詩織はそう呟いた。





「なんだよ。届くじゃねーか。だったら…殺せるってコトだよな。」


空にいる詩織に自分の斬撃が届き、傷をつけたコトを確認して…ゼトはニヤリと呟いた。


そして…また槍を握り締め、今度は連続して槍を振い始める。


今度はその斬撃に炎を纏わせて。


ゼトの持つ槍は「炎竜の槍」煌具と呼ばれるクラスの武器である。ゼトが銀等級時代に潜った迷宮で運良く見つけたモノ。


本当の本当に幸運だった。人生の運を全て使い切ってしまったとしてもおかしくないくらいに


魔力を使わなくても斬撃を飛ばすコトが出来、それに魔力を消費すれば炎を纏わせるコトも可能。魔法適正が無い者でも魔法が使え、然も詠唱時間も必要としない。


持つ者の力を底上げする効果は殆ど無いが、それを補って余りある程の性能。


ゼトの槍術士の位は槍王、それにこの槍の性能を加えれば、個人としては白金等級に手が届く実力がある。


初めて見る悪魔。10歳から冒険者を始めて10数年経つが、ただの御伽話だと思っていた。


コイツを生捕りに出来たら…殺したっていい…

そうすれば…俺も白金級の仲間入りだ。世界に名を残す英雄になれる。


ゼトはこれからの戦いに、自分の冒険者生命を全て賭ける覚悟をした。




「むかつく…何なの…これ……痛ッ!?」


連続で飛んでくる炎を纏った斬撃、それだけなら避けられる。タチが悪いのは…その中に最初の攻撃ような視認しづらい、ただの斬撃が混じっているコトだった。


本当なら『地獄の業火』ですぐさまにアイツを焼き尽くしたいのに…


悪魔である詩織に魔法の詠唱は必要無いが、『地獄の業火』レベルの魔法を放つには魔力を溜める時間が多少必要になる。


その時間が無い。透明な斬撃を避けるために集中力をそちらに持っていかれる。


何度も魔力を溜めようとして、失敗した。


そもそもこの世界に来たばかりの詩織には、戦いの経験が無い。先の戦いとて悪魔としてのポテンシャルと運と相手の油断のおかげで難なく勝ってしまっただけだ。


この状況に対して、どんな魔法を選択して…どう戦えばいいのか分からない。


イライラする…


焦ったい状況に詩織のフラストレーションがどんどん溜まっていく。


「もう…いいっ!」


詩織は両手で無数の風刃をゼトに向けて放った。


ゼトの放つ斬撃に風刃をぶつけて相殺させる。そして…ぐっと翼にチカラを込めて、詩織は急降下を始めた。


チカラで縊り殺してやる。



怒りに身を任せた詩織。



本当ならば、ただ距離を取れば良かった。


身体能力がいくら高くても、詩織の本領は魔法である。


離れて、じっくりと魔力を溜めながら、様子を伺い、時間を稼ぐだけで良かったのだ。


和希が求めていたのもソレなのだから。


でも詩織はもっと和希の役に立ちたかった。


その欲と苛つきが判断ミスを犯させた。



こちらに向かって降りてくる詩織を視認したゼトは、



「悪魔つっても…脳みそは魔獣と大して変わりゃしねーな。ごちそーさん。」



そう言ってニヤリと笑った。





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