第7話 地獄の連れ添い



「カズ君は…ここに居てね。すぐに終わるから。」



詩織がそう口にして、俺の視界から消えて…

空を見上げると、アイツは宙に浮いていた。


空を飛べる人間なんて、見たことも聞いたこともない。ああ…アイツは本当に人じゃ無くなったんだな。


そんなコトを感じている場合じゃないのに…

少しだけ感傷的な気持ちになった。


空に浮いている詩織は辺りを見下ろしたあと、


「死ねっ…」


声は聞こえないけれど…詩織が口にした言葉は何故だかはっきりと分かった。



そして右手を振り下げた。


顕われたのは、真紅と黒の炎が混ざり合い、渦を巻く禍々しい火球。魔法というよりも…


俺には…それがアイツの魂のように思えた。


そしてそれが地上に向かって、すごいスピードで落ちていって…


ゴォォオ゛オッーーーーという低い轟音と…

耳を劈くような人間の苦しみ喘ぐ叫び声が聞こえてきた。


目の前の炎の壁が邪魔をして、俺の居る場所からは何が起きているのか見ることは出来ない。


けれどその光景は想像出来る。そして…それを俺は見なくちゃいけない。そう思った。


そして炎壁から移動して、僕の目に映ったのは


正に地獄といっていいような光景だった。


燃え盛る真紅と黒の炎。

それに包まれ…怨嗟の声をあげる人間。


村の家には次々と炎が燃え移っていき、きっと全てを燃やし尽くすまで消えないのだろう。


ただ不思議とその光景を見ても、憐憫の情は…

ちっとも沸いてこなかった。


これは…ただの報いだ。


悪魔から人への。




そして…俺の前世の幼馴染が、空から黒い蝙蝠みたいな翼をはためかせて降り立った。



その目の前には、重戦士と治癒師がいる。


何をしようとしているのか…何となく分かったけれど…止めようとも思わなかった。


だけど…僕はゆっくりと、業火が燃え盛る中を詩織の方に向かって歩いて行った。



「ネリー゛…助けてくれ…よ゛……」


不意に足を掴まれた。

足元を見ると…そこに居たのは、サラの隣りの家に住んでいた気の良いおじさんだった。

僕達の5つ下の娘が居て、たまにサラと一緒に遊んであげたりしていた。


何度か…村の集会だって言って、サラのお母さんを呼びに来ていたっけな。



「なぁ…ネリー゛?頼むよ゛…まだ俺は…死ぬワケにはいかないんだ…」



僕は…掴まれていない方の足で…


おじさんの顔を蹴り上げた。



「地獄に…堕ちろ…」


サラに嫌われてしまうかな…

そう思うと…胸が苦しくなった。



そのまま歩き出して、詩織のところに着いた。


治癒師が泣きながら、重戦士の股間に直接手を当てて治癒魔法をかけていて…


詩織はそれを無表情で眺めていた。



俺は腰からナイフを取り出して、無言で治癒師の首を躊躇なく切り裂いた。


僕は初めて…人を殺した。


魔獣を殺すのと同じ感覚だった。


生きるために奪っただけだ。


俺が今世と前世で学んだ真理は…


奪われたモノは返ってこない。ただそれだけ。




「詩織…ありがと。でもこんなの相手にしている時間はないからさ。行くよ。」



僕はコイツを利用している。

過去の呪いみたいな繋がりを使って。



「あっ…カズ君、ごめんね。うん、そうだよね。早く行こっ♡」


俺はカズ君じゃない。

君の求めてるモノは…もう二度と手に入らない


だけど…これ以上、詩織が壊れる姿を見たくはないなって思った。


グチャ…


詩織が重戦士の股間と頭を踏み潰した。



「ハハッ。コイツら、ちゃんと地獄に行けるかな?」


俺は笑って詩織に話しかけた。



「うん。ちゃんと行けるといいね。」



まぁ…今世は最後まで付き合ってやるよ。


サラが許してくれたらだけどさ。




ーーーーーーーーーーーーー


少し時間は遡る。



「ほら、早く乗りなよ。こんな馬車乗ったコトないだろう?良かったね、貴重な経験じゃないか。」


レスターが笑いを堪えながら、サラの腰に手を回して馬車に乗るように命令した。



「…いやぁ…やっぱり゛…やだぁ・・・」


今更に…先程の自分の選択を後悔し涙を流すサラを見て、レスターの興奮は更に増していく。


金で買える女は…15歳の頃には既に飽きてしまっていた。自分に媚びを売ってくる女も同じ。つまらない。


下級貴族の娘を引っ掛けて、純潔を奪って捨てる遊びは多少の気晴らしにはなったけれど…結局は馬鹿相手のお遊びだ。



やっぱり、最後まで抵抗している女を犯すのが一番良い。力でねじ伏せ、屈服させ、奪う。


これからの愉しみを想像して、レスターは歪んだ笑みを浮かべた。


壊してから持ち主に返してやるのも一興だが…


それを考えると自分の下半身が更に滾ってくるのを感じて、レスターはゼトとの約束を少し後悔した。


今回はゼトにこの女をくれてやる約束をしている。色々と役に立つ男だから…まぁ仕方がない。もし興が乗りすぎて壊してしまった時は…多めに金を払って許してもらうことにしよう。


そこまで考えて…レスターは馬車に乗ることを拒否しているサラに、



「今更、何を言っているんだい?もう遅いんだよ。ほらっ、さっさと行くよ。」


そう言ってサラの背中をドンッと叩き、馬車の中へと押し込み、自分も乗り込んだ。



「おい、馬車を出せっ!」


レスターの声が響いた。


可哀想に…そう御者は思うが、レスターを止めることなど自分に出来はしない。何も考えず…自分の仕事を全うするだけ、そう自分に言い聞かせて無言で馬を走らせ始めた。





「はぁ。しかし…馬鹿息子に付き合うのも疲れるね。まぁ今回は俺がけしかけたことだから、仕方ないけどな。」


炎の竜爪のリーダーであるゼトは、レスターの馬車の後ろで馬を走らせながら1人ごちた。


ゼトが初めてサラの存在を知ったのは、つい最近だった。


金等級ともなれば受ける依頼は高ランク魔獣の討伐だったり、上位貴族の護衛などで下級冒険者と顔を合わせる機会なんて殆どない。

だからサラの存在なんて全く知らなかった。


堅実な2人組の冒険者パーティ。そこの剣士の娘が、なかなか強い上にめちゃくちゃ綺麗だ。


久しぶりに顔を出した冒険者達がよく利用する大衆酒場でそんな話を聞いた。その時はそんな女が居るのか程度にしか思わなかった。


それからしばらくして、A級魔獣の討伐依頼で冒険者ギルドから呼び出され、ギルドを訪ねた時だった。



「あははっ。ネリー、やったね。私達、銅等級だって。」


「うん。今日の夕食はさ、宿屋じゃなくて、少し良いお店でお祝いしよっか。」


「うん、やったー♪楽しみだなー。」


仲良さそうに、はしゃぐ2人組とすれ違った。


銀髪に褐色の肌、整った顔には美しい透明感のある薄いブルーの瞳が輝いており、

軽装鎧の下に隠れている身体は、女特有の柔かさに加えて、猫科の動物を思わせるようなしなやかな身体があるコトを容易に想像させた。



あー、この女か。ゼトは思った。


確かにこの街には不釣り合いだ。王都の貴族が使う最高級娼館でも、このクラスはなかなかお目にかかれない。

それに高級娼婦には無い野生味もあって、より俺好みだとゼトは感じた。


そして何より…ゼトの気を引いたのはサラの才能だった。

ゼトはその歩き方、身体つき、雰囲気、それらの情報からサラの剣士としての潜在能力の高さを見抜いた。


もったいねぇな。


ゼトはそう思った。


この女は上手くいけば白金級だっていけるかもしれねぇ…なのにこんなつまんねぇ男と組んでたら、伸びるものも…伸びやしないだろ。


なら…俺が貰ってやるか。


自分の中で、そう結論づけた。


それからゼトは、サラとネリーのことを情報屋に調べさせ計画を立て、レスターをけしかけた。キングボアは自分達で生捕りにしてきたモノを村の近くで放してやっただけだった。


ゼトの筋書きでは、あとはレスターにこっ酷く犯されたサラに優しくしてやり、手懐けてやるだけ。


レスターみたいなクズに犯されたあとなら、簡単だろう。それに1回痛い目に合えば…甘っちょろい考えも抜けて丁度良いだろうしよ。

そうレスターは思っていた。



「ふーっ。あとはあの女がレスターに壊されないように気をつけておかなきゃな。壊されたら、元も子もねぇ。」


最近手に入れた漆黒の身体に二本の角を持つ自慢の魔馬を走らせながら、サラを手に入れたあとの未来を想像して…ゼトはニヤリと口端を上げた。










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