第6話 獄炎の悪魔



「おいっ、どうしたっ!!何があったっ!?」


「大丈夫かっ?」


騒ぎを聞きつけて、まだ村に残っていた「炎の竜爪」がメンバーが駆けつけてきた。


おいおい…まるで正義の味方だな。


来た面子をざっと見渡す。


重戦士…狩人…魔術師…治癒師…


赤髪のリーダーは居ない…

あの程度の魔獣なら、この4人で大丈夫ってことだろうな…


正直なところ…俺の強さはこの中でダントツに1番下だ。情けないけど、戦闘に関しては詩織に頼るしかない。


詩織の強さは未知数だけれど…



「カズ君、大丈夫だよ。」


俺の不安を表情から読み取ったのか、詩織がそう話しかけてきて…俺が詩織の方を向くとそのまま言葉を続けた。


「悪魔って…知ってる?前世で漫画とかによく出てくるやつ。私達と違って…前世の記憶を忘れてたカズ君は分からないかな?」



詩織の言う通り…詩織と俺に関する記憶は思い出したけれど…他のことは何となくぼんやりとしか分からない。



でも悪魔なら知ってる。


人に災いをもたらすもの。


神様の敵



「詩織は…悪魔なのか?」


「全部終わったら…何があったか…話すね。」


「そっか…分かった。でさ…これ大事なコトなんだけど・・・俺さ、ぶっちゃけ弱いぞ。」


「ふふっ。知ってるよ。でも関係ないよ…だって…この世界の私…強いんだよ?・・・・それに…カズ君は弱くないもん…」


「ははっ。じゃあ、信じるよ。」


「うん、任せてね。」


そう口にして、詩織はニコっと笑った。


なんていうか…懐かしいな。


前世じゃ…結局、失った幼馴染の関係は元には戻らなかった。一緒に居るだけで…お互いを傷付け合うだけだった。


少しだけ…詩織との間に懐かしい空気感が流れて…


そして…炎の竜爪のメンバーのデカい怒鳴り声がそれを破壊した。



「おいっ!コレやったのは、テメーかっ?」


重戦士の男が肉片になった村長を指差し、俺を睨みつけてきて…そこでソイツは詩織の存在に気付いた。



「おっ?何だ、横の女は娼婦か?すげーエロい格好してるじゃねーか。ガハハッ、黒髪も珍しいしよ。」


「うるさい。お前には関係ないだろ。」



「なんだ、お前は女衒かよ?幼馴染の女もいい女だったしな・・・なぁ、そいつもくれよ?そしたら見逃してやるからよ。」




横に居る詩織の表情が変わった。



「ゴミが…煩い…せっかく…本当に゛っ!!」


そして右手を上げて、人差し指を振った。


すると、ヒュッっと風切り音がして…

次の瞬間、重戦士の右腕がポトリと落ちた。



「へっ…!?」


「ディードっ!!」


異変に対してすぐに反応を示したのは狩人の男だった。すぐさま弓を構えて、流れるような動きで俺達に向けて矢を連射した。


あっ…


真っ直ぐに俺に向かって飛んでくる矢を認識した時には、矢は既にもう俺の目の前にあって…


ボォッッウッ!!


瞬間、俺の眼前に幅5メートル程の炎の壁が立ち上がり、飛んでくる矢を全て燃やし尽くした。



「カズ君は…ここに居てね。すぐに終わるから。」


詩織はそう口にすると同時に飛び上がり、一瞬で俺の視界から消えてしまった。





「八つ当たりには…ちょうど良いかな。」


詩織はそう口にしながら、眼下を見下ろす。


馬鹿みたいに重そうな鎧を着ている男は苦悶の表情を浮かべて、ア゛ァーと情けない呻き声をあげている。

そしてその横にいるのは治癒師だろう。焦った様子で傷口に治癒魔法をかけ、必死に止血をしている。


アレらは少し放っておこう。そっちの方が面白そう。もっと苦しめ。詩織はそう思った。


先程すぐに矢を放ってきた狩人は弓を構えたまま、じっと炎壁を見つめて様子を窺っている。


まだ私に気付いてないんだ。バカだなぁ。


コイツは2番目かな…それよりも先にコッチを殺さなきゃ。そう考えた詩織の視線の先には、

黒いローブを羽織った魔術師が居た。


杖を握り締め、ブツブツと呪文の詠唱をしている。炎壁を越えて魔法を使われたらまずい。

もし万が一にでも…カズ君の身に何かあったら、もう死んでも死にきれない。



「死ねっ…」


詩織はその言葉と共に、右手を魔術師に向かって振り下げると、


ゴォォオオ゛ーーー


直径3メートル程の超高温の炎が球状に渦を巻いている巨大な火球が轟音と共に顕われ、魔術師に向かって高速で飛んでいった。


地獄ヘル業火ファイア


魔族となった詩織のとっておきの魔法。

戦い慣れている者であれば、切り札ともいえるそれをここで使う選択はしないだろう。だが…


出し惜しみはしない。


失う恐怖を知っている詩織はそう決めていた。


そしてそれに…ずっと詩織に対してそっぽを向いていた幸運の女神が微笑んだ。



「あっ…。」


呆けた顔をして間抜けな声をあげる魔術師。

火球の存在に気付いた時にはもう遅かった。


手にした杖からは唱えていた魔法が発動し始めていた。その魔法は『暴風』


杖の先から少しずつ風が巻き起こり始める。

この魔法であのザコ治癒師を炎壁ごと巻き込んで焼き殺すつもりだった。

魔術師の頭の中では…全身を焼かれ、呻き声をあげながら…苦しんで死ぬザコ治癒師の姿がはっきりと浮かんでいた。


勝ちは確定している。そう思っていた魔術師は火球を見て一瞬だけ魔法の発動を躊躇してしまった。

このままだと暴風は至近距離で火球を巻き込んでしまう。そうなれば自分もただでは済まない。

そのことに恐怖を覚えてしまった。


けれど魔法を止めれば火球は自分を直撃し、そうなれば死は免れないことをすぐに理解して…全力で魔力を込めた。


暴風で火球を吹き飛ばす。



身体が焼かれる痛みは一瞬の筈だった。それさえ我慢すれば…



ゴォォオ゛オッーーーーという音と共に近づいてくる火球に向けて暴風を放とうとした瞬間…


球状に渦を巻いていた炎が拡散した。


そして杖の先端に集まってくる風が拡散した炎を巻き込んで…

熱でパリンッっと杖の先端に付いていた魔力増幅装置の宝玉が割れる音がした。


それによって魔法の制御バランスが崩れてしまった。制御を失った暴風は魔術師を中心に地獄の業火を巻き込んで暴れ回る。



「ゔっぁああ゛ぁぁぁぁ!!」


一瞬で魔術師の服と髪は燃え尽き、眼球が蒸発し、皮膚が焼け爛れた。



「ガスターっ!!ぁあ゛っっっ!?」


仲間のあまりに悲惨な光景に、一瞬逃げるコトを忘れて、仲間の名前を叫んだ狩人。

その一瞬が命取りだった。

地獄の業火は、その隙を逃さず狩人にも襲いかかった。



「やめろっ!!クソがっ!」


すぐさまに服を叩き火を消そうとするが、纏わりつくように…その炎は勢いを強めていく。


必死になって炎から逃れようとする狩人を嘲笑うかのように、狩人の身体が業火に包まれた。


「あ゛ぁぁぁあ゛あ゛ぁぁっっっ!!」


燃え盛る炎の中、誰かに助けを求めるように両手を上げながら…叫び声をあげ、そして狩人は膝から崩れ落ちた。


炎はそのまま、争いを見物しようとしていた村人数人も巻き込んで、魔術師が居た場所を中心に半径10メートル程が火の海となり…


トンッ


詩織は…それを確認して地上に降りてきた。


詩織の目の前には


「ひい゛ぃぃ゛!!」「ゔっあぁぁぁあ゛っっ」



恐怖にガタガタと震え、顔を歪め…怯える重戦士と治癒師が居た。


コイツ等は…アイツ等を彷彿とさせるなぁ…


もっと惨めにしてやろう…詩織はそう思った。



グチャッ…


「あ゛ぁああ゛っっっ!!ゔっゔゔぅッッ。」


詩織は足で重戦士の股間を躊躇なく鎧ごと踏み潰した。


「ほら…鎧外して、治してあげなよ。」



ゴミを見るような目で治癒師を見下ろしながら…命令する。



「え゛っっ?」


治癒師は…そう口にした瞬間、自身の太ももに激痛を感じて、


「あ゛っぁあ゛あっっっ!!」



叫び声をあげ、自身の太ももを確認すると、炎が突き刺さっていた。炎が刺さる?自分でも理解出来ないが…確かに炎が刺さっているのだ。


「や゛っ…や゛めっっ!?」


傷口が焼かれる痛みは筆舌に尽くし難いものがあった。痛みで涙と鼻水が溢れてくる。



「じゃあ…早くしなよ。」


ひゅーっ…ひゅーっ…恐怖と痛みで呼吸が荒くなる。少しでも気を抜けば…そのまま気絶してしまいそうだった。


「は…い゛っ…」


それでも…何とか声を絞り出し、重戦士の股間をまさぐり始める。


「あ゛ぁあ゛ぁっっっ!」っと泣き叫ぶ仲間の声を聞きながら、潰れて血だらけになった局部を露わにして、そこに治癒魔法をかけていく。


あまりにも惨め…そう治癒師は思った。


少なくとも治癒師にとっては…ディードはいいヤツだった。

少し荒っぽいトコロもあるが、

いつもガハハッと豪快に笑い、戦いでは最前線に立って仲間を守ってくれた。


それが…何でこんな…こんな仕打ちを受けなくちゃいけないんだ?

たかが女1人奪おうとしただけだろ?

それよりも救った命の方が多いはずだ。


この女…狂ってんだろ・・・


そう思った瞬間、一瞬だけ喉が熱くなって…

それからヒュッっと息が出来なくなり、全身から力が抜けていく。


そして目の前のディードが…プシャーという音と共に真っ赤に染まっていき、自分が喉をかっ切られたコトを理解した。



「詩織…ありがと。でもこんなの相手にしている時間はないからさ。行くよ。」


薄れていく意識の中、ザコ治癒師の声が聞こえる。


テメーは何もしてないじゃねーかよ。

こんなバケモノ女に守られて…何を偉そうに…



「あっ…カズ君、ごめんね。うん、そうだよね。早く行こっ♡」


グチャ・・・


バケモノ女が…俺が必死に治癒させられたディードの局部をまた潰して、そのままディードの頭も踏み潰した。


キチガイ女が…


クッソ……最悪だ…


マジでツイてねぇな…


治癒師は…そう心の中で呟いて、事切れた。



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