第5話 世界が変われば



「カズ…君゛…本当…に゛…?ねぇ…じゃあ…はぁ…はぁ…早く…エッチしよ・・・ねっ?」



俺の言葉を聞くなり、詩織は艶めかしい吐息混じりに身体をピタリと俺にくっつけてきた…


さっき…俺に死ぬって言ってたのは、何だったんだよ…


すぐさま後悔が襲ってくる。


気持ち悪い…


その口でいったい何本のチ○コを咥えてきたんだよ…近づけんなよ・・・


嫌悪感しか無い筈なのに…コイツの吐く吐息の匂いが、甘く感じてしまう自分に心底腹が立つ…


ふーーーっ、一度大きく深呼吸して…


出来るだけ冷静に、無感情のフリをして…


「勘違いするなよ。俺は…お前とはセックスしない。あくまでオマエの''助けて'' に対して、頷いただけだから。」


そう言って、詩織の肩を押して身体を自分から引き剥がすと…



「えっ・・・やだよ…エッチしようよ…ねぇ…あっ、おち○ちん舐めてあげようか…私…上手いんだよ…?」


詩織が上目遣いで、媚びるように…そう口にした。


一瞬で頭に血が昇り、怒りで全身が粟立って…詩織に思わず手が出そうになる。


ふーっ…ふーっ…ふーっ…


息を整えて…唇をぐっと噛んで…ギュッと自分の手を握り締めた。



本当に…ワザとやってるのかよ…コイツは…


何が…どうして…こうなっちまった・・・?


誰が…詩織をぶっ壊した…?あのクソか?



「いいから…服着ろよ…」


「やっぱり…こんな汚い女…いや…?」


また涙目になって…縋るように…当たり前のことを聞いてくる…


イヤに決まってるだろ…


''詩織は汚くないよ''


そんな…綺麗事なんて言えるワケないだろ…

頼むから…その身体を俺に見せるなよ…


身体は汚れてても、心は…なんて言葉が、自分を責めるように頭に浮かんできて…



「いいからっ、服着ろっつってんだろっっ!!何度も言わせんなよっ!!着ねーなら、今すぐ俺は帰るからなっ!」


とうとう…声を荒げてしまって・・・


詩織は身体をビクッと震わせたあと…


「やだ…やだ…やだ…ごめんなさい…ごめんなさい…」


怯える詩織を見て…また俺の感情がぐちゃぐちゃになる。

こんなの俺が助けられるワケないだろ…

っていうか…詩織の親は何やってんだよ…何でここまで放って置いた…?



「じゃあ…早く服着てくれよ…頼むから・・」


ぐちゃぐちゃな思考の中、俺は詩織が脱ぎ捨てた白いワンピースを指差して…なんとか言葉を絞り出した。


「うっ…うん・・・」



詩織は俯きながら了承して、俺に背中を向けて脱ぎ捨てた洋服の方へと、ゆっくりと歩き出した。そして俺の視界に映る詩織の後ろ姿。


華奢な白い背中とカタチの綺麗な尻…そこにも紫色のキスマークと歯型がそこら中につけられていて…

落とし消しきれなかったのか…黒マジックで書かれた卑猥な文字と悪戯書きが薄っすらと残っていた。



俺があの時…どんなに手を伸ばしても届かなかった幼馴染。


諦めて…吹っ切って…とうとう彼女が出来て…


やっと、これからって時に…


俺に背を向けて…背中を丸めて、脱ぎ捨てた白い下着を履き直している幼馴染の姿を見て…

自然と涙が出てきた。



「うぐっ…ゔぅ…ひっぐっ…」


高校生の時の…コイツを諦めた時の喪失感とは比較にならない位に…


酷く惨めな2回目のBSSだった。



詩織の言葉が頭の中でリフレインする。


「何でっ!何でっ、カズ君っ゛どっか行っちゃったの゛っ!近くに居てくれたら゛っ、こんなことに゛っ…ならなかったのにっ!!助けてって言えたのに゛っ!!

私のこと…ずっと避けてっ…ずっと…ずっと…後悔してだのに゛っ…!」



俺が悪いのか…


ずっと諦めずに、オマエの側にずっと居て…


オマエが傷ついて帰って来た時に、おかえりって優しく受け止めてやれば良かったのか…?


それは…オマエに都合が良すぎるだろ。そう思いながら…


一瞬だけ…その選択をした未来を想像をして。


その幸せな未来と現実の落差に、気が狂いそうになった。



「カズ…君…。泣いてるの…?ごめんね…汚くなっちゃて…ごめんなさい…」


いつの間にか服を着直していた詩織が俺の後ろに居て、謝りながらそっと寄り添ってきた。


背中に詩織の温もりと感触を感じる…


頭に浮かんでくるのは、幼馴染としてずっと好きだった、あの頃の詩織…



「なぁ…オマエに何があったんだよ゛…?」



コイツの顔を見ないで済む今の状態なら…


少しは…優しくしてやれる気がした。



「あのね・・・」



それから詩織は…ぽつり…ぽつり…と自身に起きた出来事を話し始めた。



最初…クソとの馴れ初めは友人からの紹介で…俺との関係が進展しないコトについて相談したコトがキッカケだったそうだ。


それからいつの間にか言葉巧みに、初めてを奪われて、俺に対する罪悪感でずっと悩みながらも、セックスの快感を教え込まれてクズを拒否することも出来なかったらしい。


それでもずっと説得しようとしていた俺に、正直に全部話してみようと思い始めたトコロで、俺が離れていってしまった。


それからはクズの言われるまま…


痛みを忘れる為にセックスに溺れて…

それにまた痛みを覚えて、更に溺れる…


大学に入ると先に大学に上がっていたクズが入っていたヤリサーに入れられ、そのままいいように肉便器扱い。いつの間にか堕ちるトコまで堕ちていた。


最近じゃこの部屋もヤリ部屋扱いらしい。


母さんが言ってた、最近ウロつくようになったガラの悪い連中っていうのもコイツの入っているヤリサーの部員だろうな…


詩織の両親はやっとそこで、詩織がマズイことになってると気付いたそうだ。



全部が全部バカ過ぎて…



「ごめんね…こんなに…汚れちゃって…」


自分も含めて…



「ハハッ…ハハハ…」


渇いた笑いが漏れる。


少しは…優しく出来るかもなんて…


俺は…自分を何様だと勘違いしてたんだ?



「なぁ…俺さ…もう彼女いるんだよ。だから…お前をちゃんと…救ってやるコトは出来ない…けど、手助けなら・・・してやれる…」


「ゔん…」


それが精一杯だった。


酷く惨めな2回目のBSSのあとは、どうしようもなく最悪な気分の…''もう遅い''を詩織に突き付けて・・・


お互いに傷つけ合う。



それから…俺は廊下に出て、彼女に連絡を取り正直に事情を話した。



『そっか。大変だったね…でも和希、大学にはちゃんと来るんでしょ?』


「ああ、でも…当分実家から通うコトになると思う。あと…ゴールデンウィークの予定も…ごめん、遥・・・」


『ううん。それ聞いちゃったらさ…しょうがないよ。気にしないで。』


「甘えちゃって…ごめん。遥、ありがとう。」


『うん。でも無理しちゃダメだからね。和希も…ツラい時は私を頼ってね。大好きだよ。』


「ああ、俺も大好きだから。」



彼女との電話を切って部屋に戻ると、詩織はクッションに座って…ローテーブルに両手を置き、ぼーっと宙を見ていた。


「彼女さん、良い娘なんだね…羨ましいな。」


「・・・ああ。」


「そこ…座って…?」


詩織に促されるまま床に置かれたクッションに座る。



「こうやって…一緒に座るの、久しぶりだね…」


詩織の言葉を聞いて…たくさんの思い出が…浮かんでは消える。



「昔は…こうやって…2人で座っているだけで楽しかったのに・・・

今はね…こうして座っているだけだと…どうしたらいいか分からなくなっちゃうの。不安になるの…身体を触ってもらってないと…安心出来ないの…あははっ、もう病気だよね。」



「ああ…だから治そう?病院行ってさ、その…男達とも…縁切ってさ…」


「ゔん…」



そのあと…GWが終わったら、一緒に病院に行くと詩織に約束させ、携帯も解約させた。


その代わりとして…GWは、詩織と一緒に居た。特に何をするでも無く。


そして休みの最終日…

病院に行くためにピアスを外して欲しいと頼まれて…乳首とアソコのピアスを外してやった。


その時に…俺は産まれて初めて…女の身体に直接触れた。



それから…詩織に病院に一緒に付いてきて欲しいと頼まれて…俺は付き添った。


向かう途中で高校の同級生と久しぶりに顔を合わせて、


「カズ、久しぶりだなー。2人はヨリ戻したのか?」


そう尋ねられて…


「ハハッ、ちげーよ。そんなんじゃないって」


そう言って苦笑いを浮かべながら答えると…横に居た詩織が哀しそうに笑って、


「そうだよ…カズ君は…私なんかには…勿体ないよ。」


そう口にした。



詩織を産婦人科…それと精神科に連れて行きながら…


だんだんと俺の感情がヤバくなってってるのは自覚していた。


時々…高校の同級生と大学の友人からLIMEが入ってくるようになった。


『頑張れ』


『カズは強いな』


『お前、スゲーよ』


『スパダリ』


『セーフティネットww』



1ヶ月後、久しぶりに1人暮らしの家に帰って…



俺は壊れた。



その半年後・・・僕は…自殺した。




ーーーーーーーーーーーーー




「きゃあ〜〜!」「逃げろっ〜!!」


やっと状況を理解して慌てふためく村人達に、



「せっかくカズ君と再会出来て…感動的な場面なのに・・・うるさいよね。…殺しちゃう?」


詩織は村人達に苛つきを隠そうともせず、俺にそう聞いてきた。でも僕は…それどころじゃなかった。


前世の最悪な思い出を追体験して…詩織と俺の最悪な結末が…

サラと僕とのあり得る未来として想像してしまった。



「ゔぉぇえぇぇ゛…」


ビチャビチャとまた地面に溢れ落ちる吐瀉物。


さっきの暴力に対しての肉体反射とは違う…

悍ましい過去と未来への恐怖からだった。



「カズ君…大丈夫…?やっぱり…私とは会いたくなかったよね?でも…私…頑張ったんだよ?」


詩織の…耳に馴染んだ声がスーっと入ってくる。俺だって分かってる。あの時…コイツは頑張っていた。立ち直るために…だからこそ…感情がぐちゃぐちゃになった。


それに…俺が…あの時…自殺したのはコイツだけが原因じゃない気がする。


「ああ…知ってる…」



そう答えると、詩織は俺の口に付いた吐瀉物を手で拭いながら、


「今度はね…私がカズ君を助けてあげる。だから…今度は・・・私を受け入れて?」


コイツはちゃんと意思を持って…駆け引きが出来るようになったんだな…


ふと…そう思った。



詩織が何で…この世界に居るのかは分からない。ただコイツの力があれば…サラは奪い返せる気がする。


この世界では…僕にとっての最悪な結末は避けることが出来る。


だったら…俺のトラウマなんて気にしてる場合じゃない。


それに…この世界の僕は…

あの世界の俺じゃない。


「俺は…お前を利用するぞ。自分のために。」


「ふふっ。お互い様だよね。」


「今度はお前がBSSだぞ。」


「知ってる。正確にはWSSだけどね。でも…私のことも愛してね…」


そう言って詩織は、俺の吐瀉物が付いたままの手をぺろっと舐めて笑った。



「ああ…サラが許してくれたらな。」


「ふふっ。カズ君、イジワルだー。」


「じゃあ…行くか。」


「うん。じゃあ…くそ寝取り男を殺しに行こ?」


「ああ。」


そして…俺達は立ち上がった。


まずはサラを奪い返す。全てはそれからだ。








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