君が悪いんだよ!
川線・山線
第1話 君が悪いんだよ!
「美人じゃないけど、フレンドリーで愛嬌のある人」、それが君の第一印象だった。クラスメートで同じ班の君は、「紅一点」のはずなのに、「いじられキャラ」になっていたね。でも、僕は思ったんだ。「君に愛される人は、一生幸せに過ごすだろうなぁ」って。
2年生の夏休みのころ、君は彼氏との関係がうまくいかず悩んでいたね。僕は
「元気を出して」
と「明日にかける橋」のCDを貸したけど、歌詞の中に、「もし友人が必要なら、僕が後ろにいるよ」と入っていることに気が付いただろうか?
秋の終わり、ずいぶん風も冷たくなったころ、友人たちで食事をしたときに、君は「彼氏と別れて寂しい」と繰り返していたね。その言葉が君の新しい恋の隠れ蓑、なんてことに気付くほど、僕は遊び馴れていないよ。それに、君がそう言うから、僕の心の奥に鍵をかけて隠していた気持ちを抑えられなくなってしまったよ。
冬が終われば、結婚することが決まっている僕にとって、それはとても困ったことになってしまったよ。もちろん、そのことは君も知っていたね。
クリスマスイブ、ではあまりにも露骨なので、その前の日に君を食事に誘ったね。お互いにお金のない学生同士。バイクに二人乗りをして、食事の後は、あの山から、夜景を眺めたことを覚えているよ。
「好きだ」と言おうとするけれど、その言葉は、のどにつっかえて言葉にならなかったよ。
「あなたに何かを求めたり、あなたとの関係を変えたりするつもりはないけど、気持ちを伝えずにはいられなかった」
というのが、僕の精一杯だったよ。
タンデムで君を家まで送る途中、君は僕のポケットに手を入れてくれたね。君の存在を背中に感じていたよ。それだけで十分だったよ。
君の新しい彼が同じ班の友人だ、と気づいたのは些細な君のしぐさだったけど、心から、君と彼が幸せに過ごすことを祈っていたよ。
GWが終わり、僕が結婚した後、彼から、
「彼女、結婚の日に涙を流してました」
と聞いたよ、ありがとう。それだけで十分だよ。
卒業してからも、ずっと友人だね。10年ほど前だったか、中秋の名月の日、あまりに月がきれいだったので、君に
「今日は月がきれいですね」
とメールを送ったね。君からの返事は、
「夏目漱石は“I Love You.”を『月がきれい』と訳しなさい、と言ったそうですよ」だったね。100年以上前からの「漱石ミサイル」、僕に直撃したよ。
いつまでも君の幸せを祈っています。
君が悪いんだよ! 川線・山線 @Toh-yan
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