第4話忘れた名前を つつむ魔法
ある雨の朝。
ティナの家の前に、小さな石が落ちていた。
でもそれは、ただの石じゃなかった。
触れると、ひんやり冷たくて、かすかに震えている。
ティナは石を手のひらにのせて、目を閉じた。
「…この石、名前をなくしてる」
それは、遠い昔、誰かが大切にしていたお守り石だった。
けれど、名前を忘れられてしまって、声も意味も失ってしまったのだ。
名前をなくしたものは、とてもさびしい。
だからティナは、“名前のないものを包む魔法”をつかうことにした。
絵本のページを一枚、やぶる。
にじんだ文字を丸めて、石のまわりにそっと巻きつける。
そして、小さくつぶやく。
「名前を思い出さなくても、大丈夫。
忘れたままでも、ここにいていいよ」
石は震えるのをやめて、すこしだけ重たくなった。
ティナはその石を、自分の部屋の窓辺に置いた。
もう名前を思い出さなくてもいい。
それは“だいじょうぶ”って包まれたから。
ティナは、今日も絵本のすみに書きとめる。
「忘れたままでいい魔法も、ある」
ティナの魔法は、「なおす」魔法じゃない。
ときには、「そのままでいい」と伝えることも、魔法のひとつ。
やさしい魔法は、ティナと一緒に、少しずつ増えていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます