第3話魔女の朝とスープのまじない

ティナの朝は、すこし遅めに始まります。


朝の光が葉っぱ越しにゆれるころ、

小さな丸い家のまどに、ふくろうの影がぽんと落ちる。


「おきてるー?」

という声に、ティナは眠たげな目をこすりながら、

おおきなまほうの帽子を、布団の下から引っぱり出してかぶる。


今日は、“かなしみのスープ”をつくる日。


それは、泣いたあとの心をすこしやわらかくしてくれる魔法のスープ。

ご近所のねずみのおばあさんが、朝から元気がないって聞いたのだ。


「うすいにんじんのしみ、かすかな笑い声のあと、においのしないハーブ……」

ティナは木のスプーンでそっと混ぜながら、まじないをささやく。


「しょんぼりを やさしくといて

ぬるいまほうで むねをあたため

ことばの代わりに なりますように」


ぐつぐつ。

鍋の中で、小さな泡が星のかたちになっては消えた。



スープを届けた午後、

ねずみのおばあさんは何も言わずに、ティナの手をにぎってくれた。


その手が、とてもあたたかかったので、

ティナは「ああ、まじない、きっと成功した」と思った。


夜。

帽子をぬいで、日記のように、まほう帖のすみにひとこと書いた。


「今日は、ことばを使わない魔法だった」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る