第2話ティナと星の種

水たまりの国から戻った夜、ティナは眠れなかった。


ポケットに入れたままだった小さな貝殻が、時おり「コロ…」と音を立てて、まるで夢の中に話しかけてくるようだったのだ。


「ねぇ、わたし、なんて言ってたのかな?」

ティナは貝殻をそっと耳に当てる。


すると、ふわりとした声が聞こえた。とても小さくて、でもたしかに。


「つぎは、星の種を……さがして……」


星の種? それは、おとぎ話の中でしか聞いたことがない。


眠れないまま、ティナは夜の庭に出た。

空には星がひとつだけ、ひときわ青く光っていた。ティナは帽子をぎゅっとかぶりなおして言った。


「うん、じゃあ、いってきます」


そして、足もとに小さな円を描いた。魔法のチョークで。


「月のしずくと、こどもの勇気、すこしの空想。まぜて、開けて、そっと歩く」


地面が一瞬だけ透けて、その先に夜の森の古い道があらわれた。


森の奥に住むのは、星を知っている鳥たち。でも簡単には教えてくれない。

ティナは、歌をうたった。自分だけのことばで。


「星のたねは どこでねむるの

 光るゆりかご 風のこえ

 忘れられた夜の先

 ひとりでも さがしにゆくよ」


すると、古い木の枝に止まっていた一羽の鳥が、くちばしで何かを落とした。

草の上に、ころんと落ちたそれは、ほんのり光る小さな実だった。


ティナが手に取ると、それはゆっくりと温かくなって――


ぽん。


夜空の星が、一つ、増えた。


それが、ティナが見つけた最初の星の種だった。

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