風薫の過去1

あっけらかんとした性格に見られがちだが、風薫の人生は悲惨続きで疲れ果て30代の時には

「自分は幸せになってはいけない人間なんだ」と思い込むようになっていた


母が仏教を信仰していたので「悪いことをすれば地獄へ行く」と子供の頃、大人たちには年中言われたいた

風薫は特別に強くそういう考えを信じてしまう性格で大人たちの言うことはかなりその後に人生に影響することになる



30代で色々あったので自分を責め続けたあげく

「何があっても我慢します」と神様に誓ってしまった


それがいけなかったのか?

次から次へと不幸は絶えなかった


幼い頃、風薫を一番可愛がっていた父親が自殺した

統合失調症で入院していた病院でのこと


母親はそれから気が抜けたようになってしまって

時々涙ぐんで洗濯をしている姿を風薫はジッと見上げている毎日だった

子供心に「この人を守らなければいけない」と感じていた



母は私たちが成長して行くに連れ、怒りをぶつけるようになり、食事の支度もしない、掃除もしないことが多くなった

布団はいつも湿っていてほこりっぽい陰気な部屋で毎日過ごしていた

「私はあんたたちの犠牲になったのよ」

と母は時々鬱憤をぶつけた


「私に収入があったら助けられるのに」と思う反面、冷静に母のような人間にはならないという、自分もいた



風薫はほとんど子供の頃の楽しい記憶がない

父が生きていた頃、仲間たちと飲んでいるとき父の膝の上で一緒にご飯を食べていたり、時々、ビールを舐めさせられたりした記憶くらいだ

他はみんな小学校にあがってからのことばかりで

浮かんで来るのは怒って私たちにや八つあたりする母の姿

泣きわめいてる母

ほこりだらけの汚い部屋

毎日、並ぶ愛情のない食事ばかりだ



「自分が前世で人を傷つけたから不幸な人生なんだ」

病気、怪我、借金苦、何をやってもうまく行かない

あんなに嫌いだった母の人に八つ当たりする行動

自分もいつしか同じになって行った


毎日、夫に不機嫌な態度で接して

二人で大量のビールを飲んだり、片付けも洗濯ものも掃除も適当、仕事で疲れた精神や身体を休めるために家に帰るような日々を送り、まともな生活ではなかった

自分をいじめ、責めて、毎日ヘトヘトになるまで働いても暮らしは楽になるどころか

ますます苦しくなっていく、そのうちこの借金は終わって必ず大きな幸せが来ると信じて生きていた

元々、身体は丈夫ではないのに母を心配するあまり、実家のことまでやらなければならない

どんなに忙しくても疲れていても、年4回の墓参り、祖母と母の病院、母を元気づける為に買い物やスポーツクラブにもつれて行った


なぜ神様はこんな私を生かしておくの?

こんな人生を生きることに何の意味があるの?何年も何十年も問い続けた

占いにも凝った

吉報取りが良いと言われて何十回も出かけた

被災地や貧困な国への寄付もできる限りした

生活の為に一日中座る暇もなく働いた


それでも変わらない


母が四柱推命や気学、姓名判断を習いに行ってそれを見よう見まねで覚えた


税金、借金返済、病気のための病院代金や整体代金


お金はいくら働いても足りなかった


歳を重ねるにつれて段々と心もすり減っていった

人のためにと良くしてやった人間ほど裏切る

もう、気は遣えない

身体もボロボロで死んでしまう

自分の我が儘ばかり主張していて感謝もしない、嫌がらせばかりする家族など必要ない


もう、独りになりたかった

やがて夫も出て行き、風薫は何も考えられなくなり

ただ、時を過ごして、毎日ノルマをこなすだけの日々を送る


  「 念の人・感応の人」

もう出会ってから20数年にもなるかしら・・・


その男といると我慢我慢の連続で精神も崩壊して病気になってそれでもなおその男

に支配されてきた

最初10数年は、何度追い出しても何とかしてあの手この手で戻ろうとしてきた

ここに来てからも変わることはなかったのである日、決心して「家族に暴力を受けている」と相談して母、兄の力を借りて出て行ってもらった

それからどれくらい経ったか・・・・

男が住み込みの日雇いみたいな事をしている時は身体を壊して働けないと泣き言を言ってきた

病院に連れて行った


土下座して「トリミングの仕事を教えてほしい」と懇願する男に

「きちんと試験を受けて資格を取って出て行く約束」をさせて仕方なく承認した


はじめてみるとなかなか飲み込みがよく、

最初は彼のセンスの良さに期待したが自分の好きなように(トリミングしてから間もなく伸びてもいないうちに)犬をトリミングしていたから久しぶりに来店の犬などは出来るはずもない

学校も途中で行かなくなり資格は取らないし仕上げもきれいだから、自分の方が上だと示したくて

講習会では私の邪魔をして参加者の前で偉そうな事を言ったり、指示も無視して

結局、私の顔に泥を塗ることばかりだった


試験もうけなかったから今度は「約束だから出て行って」と強気に出た

男も少しは大人になって父親のアパートに越して行った

その後も通い続ける(店だから鍵が開いている)から無視を続けたりして、頑張ってきた

だけど10数年前に私が無愛想な顔をし続けている結果、自分があまりにも醜く変貌したことに気づいて自分の行いを考えるようになった

今まで脳の本やスピリチュアル系の本などをたくさん読んで来た私は


・・・・・・そういうことなのか?・・・・・と

納得して男と闘いながらも現在に至る


忙しいこともあり、そこに居てもらうのも邪魔なのでやがて送迎や小さな事は頼むようになった

男はお金も時々、財布から抜いていった

気をつけていても急に来て二階に上がって行かれたら仕事を放り出してついて行くのは難しかった

「人の家に来て勝手に2階に上がらないで・・・」といくら言っても聞かなかった

生活の為にお金を取りにくる、そんな事が続いた

奴の財布の開け方は独特で

ロングの財布の開いた蓋の部分に爪を立てる

その日も奴が上がって行ったので急いで私も上がった

その早さに男も慌てたんだろう

財布の蓋の裏側にはいつも男が爪を立てている部分が裂けていた



ある日、出すものは舌も出さないくらいケチな男が「今日はご馳走する」っていうからおかしい!と思っていると

お勘定時にのぞいた財布の中に私のブレスレットが入っていたのが見えた



男はそれを持っていてどこかで売ろうと考えたんだろう

人の良いところもある男は罪の意識が働いてご馳走すると言いだしたことで支払時にファミレスで財布にブレスレットが入っているのを見つかってしまったということだ


「見せて・・・」と強い口調で言ったがもちろん否定する

あんまり何度も店の中で催促したから終いには渋々だした


観念して

「生徒が亡くなった時にお線香を上げさせてもらうために二人で線香を上げに出かけた時にあんたの礼服にポケットがなくて仕方なく付けてきてしまったブレスレットを俺に預けたんだ」

と言った

確かにそういうことはあった

悪いことは出来ないものだ

私が疑っているから見つかることになったのか?

奴に後ろめたさがあったからご馳走する気になって

それが元でばれてしまった


魂には副守護霊というものがあって悪いことをさせるらしい

それを本守護霊が裁くようだ・・・

自分が赦せないから自分で暴いてしまう

そういう経験を自分もしたことがあるので

悪事は結局、ばれることになっているとしみじみ

思う


その男も最近はあまり勝手をすると出入り禁止になって結局、自分が損をするということが判ってきたのか?以前に比べたらずいぶんおとなしくり、暴力はここを出てからは振るわないし、優しくはなってきた

だけど支配欲とお金に対して執着が強いこと、自己顕示欲が強いことは変わらないから度を超すと喧嘩勃発となる


彼は神道系の会で知り合った

そこで依頼が来た人の回復祈願を行うご奉仕をしていて龍神を使う事ができたから(そこで龍神を動かす事が出来る資格を取っていて世界の平和や個人の健康祈願なども行っていた)自分の思うとおりに事が運ぶことが多いのだろう

そんな男に私も彼のことは好きという気持ちがないのになぜか最終的には抗うことが出来ないでいた

まさか!そんなことあるわけない

とみんな思うでしょうね

でも、そういう人はいるの


私が結婚した別れた旦那さんも同じような感じで付き合うことになったの

その人は宗教団体に入信したばっかりで「1ヶ月以内に彼女を作る」という目標をたてていて毎日、熱心に勤行してた

そこへ私が(彼の務めるバイクショップに)バイクを探しに行ったわけ

その数年前、当時乗っていたスクーターを修理依頼したときの対応が素晴らしかったからこの店で次もお世話になろうと決めていたの

私が店に入ると数年前の店長さんではなく、若い店員さんが対応した

はっきりしない応対に少しがっかりして帰ろうと会釈すると・・・

店長(元夫)は急いで駆けつけてくれて、ようやくバイクの相談が出来た


あの時はお客様と対応していて

「あっ!風薫さんがきた・・・早く行かなくちゃ」

「やばい、帰っちゃうよ~って焦って店に戻ったんだ」と

前夫は初デートで言ってた

私は彼の念力で

まんまと網に掛かったのね・・・

飛んで火に入る夏の虫みたいに・・・

私はその時、また夫のことを「やっぱり感じの良い人」って思ったのよ

見た目は全然好みじゃないのになぜか惹かれる感じ

後になってそれは宗教に入信して毎日読経しているせいだって判ったの

だって彼が読経しなかった日は判るのよ・・・嫌いなんだもの

イライラしてけんか腰になるの・・・・

それはその男と同じだったからそれ以前の様々な経験から推測しても

私がただ、念の強い人に引っ張られる体質(性格)なのか

因果応報で全部自分のせいで引き寄せてるって思い込むようになってしまったの・・・



男は支部では一生懸命に毎日、祝詞を上げるときには先達をして割と中心にいる人に見えた

入信してすぐに声をかけられ話をするようになった


ある日、私が「来月、吉報取りに行くんです」と話したら「自分も連れて行ってほしい」と言われた

「ずいぶん、気やすい人だなぁ」とは思ったけれどこういう類いの会だからその気持ちは理解できた

知り合って間もない男性と二人で行くなんて・・・ちょっと嫌な気もしたが運転も長時間になるから助かるか~

それに交通費も助かるわね・・・・きっと少しは出してくれるだろう

 

そんな甘い気持ちでいた風薫はその男の行動に呆れてものが言えないほど酷い扱いをされた

まず、免許は持っていなかったから運転は独りでずっとしていた

また、江ノ島に着いてお参りしてお水取りしたら、何と!

「今日、夕方、自分の浄霊を申し込んでいるからすぐに帰る」と言い出した

吉報取りとはその場に2時間はいるものだから

私は「それは無理、出来ません」と断ったけれど粘っていうことを聞かない

とうとう、そのしつこさにほとんどその場にいないでトンボ返りになった

交通費も払ってくれない

昼代くらいはごちそうになったんだったか?

(揉めながらジューススタンドでつまらないものを食べたような気がする)

それもあまりの身勝手さに今では覚えていない

そんなことをされても私は何でも忘れてしまう

まるで魔法で記憶(感情)を消されているような・・・

いや違う、感情はある

だけどまるでそういう事実がなかったかのような態度なのでこちらも平静を装ったのか?これからのこともあるから我慢した?


そもそも風薫がこうなったのは母の影響だった

母は想うように行かないと子供に八つ当たりした

「私はお前たちの犠牲になった」と何度も言われて

「私は幸せになってはいけない人間」と自分の心に刻んだ


小学生の子供に対して「泣いて喚いて自分の思い通りにしてきた」

子供は親がいなくなると何も出来ないから何が何でもどんな親でも言うことを聞くし、ご機嫌をとってでも気に入られようと掃除したり、土曜日はお昼を作ったりした

そうやって親の顔色を見て育つと学校でも人が怖くて信じられなくてごますりに近いことをするからいじめに遭ったり、軽くあしらわれることになる

優しくしてくれる人は貴重なので嫌だと思う人でもご機嫌をとったり我慢する


だから利用される人間になって行く


それなのに私はやっと手に入れた優しい夫にも素直になれなくて不平不満が溜まっていった

唯一、わがままが言える相手だから本音が出て無言になったり笑顔を出せない

他で我慢している鬱憤を不完全な夫に全部ぶつけてしまった


・・・どんなに大人に見えても立派な人でも人間はみんな不完全なのよ・・・

そういうことを解らなかった風薫はその後、たくさん思い知らされることになる



結局、風薫は嫌だった母と同じ女になって行った


私の人生は山あり谷ありが激しすぎる

気が休まる間がない

「は~」

風薫は毎日、仕事で疲れ果てて帰ってきて犬の世話や到底小言とは言えないその男の長い攻めにあい、少しでも反抗すれば2倍3倍になって帰ってくるから言わなくなる

ある日、私のアルバムを見つけて泣いて喚き散らし、全て棄てろと怒鳴り散らした

以前、夫と使っていた食器も全部棄てさせられた

布団もアルバムもだ

狂っていたから黙る


あまりの暴力的な言葉に堪えきれず別の部屋に逃げても追いかけて続ける

そんな日々を送っていた


結局、ほとんど寝ていない状態が毎日続き、ろくな仕事もできなくなった

実家でも「男とうまいことやってるから眠いんだろう」みたいに冷たい扱いをされて心も体もヘトヘトな状態になった

その男は親に甘やかされてわがまま放題に育ったんだと思っていたけれど

今思うとADHDとか障害だったんだろうか・・・・

近年、世間でも本やドラマでも取りだたされ始めた

自分も不登校や人間関係の悩みを経てきたから調べたりもした

今は多少、知識もある


ただ、私がADHDになったとしたらやはり母の影響だろう

子供の頃の私は他人に共感しすぎて泣くくらい繊細だったし、自分よりも人の気持ちを優先させる方だった

だけど不登校で母に迷惑をかけたのは間違いないから「あの子には迷惑かけられっぱなしだった」と言われても仕方ない


結局いつも悪いのは自分だと責める癖がついた

男がADHDだとして私がこんなに迷惑をかけられなければならないのは

前世で彼に何をしたんだろう

誰かに酷いことをしたに違いない










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