第7話 制服の剥奪と意識の侵食
慧の唇が琴音のそれから離れると、琴音の身体に残ったのは、熱い痺れのような感覚だけだった。呼吸は荒く、身体は熱に浮かされたように震えている。意識は依然として曖昧で、現実がまるで夢の中の出来事のように遠く感じられた。
慧はゆっくりと身体を起こすと、静かにスーツの上着を脱いだ。それから、ネクタイを緩め、シャツの襟元に手をかける。その一連の動作は、淀みなく、まるで儀式の一部であるかのように洗練されていた。彼のスーツ姿は、いつも琴音が見ていた家庭教師としての顔だったが、今は、その下に隠された「男」の存在を強く意識させられた。
次に、彼の指が琴音の制服のブレザーのボタンに触れる。冷たい金属の感触が、琴音の熱を持った肌に伝わる。カチリ、と小さな音がして、ボタンが一つ外される。その瞬間、慧の唇が、再び琴音の唇に重なった。口移しで、甘く熱い神酒が、琴音の口内へと流れ込んできた。熱い液体が喉を通り過ぎるたびに、体内の熱がさらに上昇する。
ブレザーが肩から滑り落ちた。その度に、琴音の身体の奥底で、何かが剥がれ落ちていくような感覚が襲う。次に手をかけられたのは、ブラウスのボタンだった。上から一つ、また一つと、彼の指がボタンを外していく。白いボタンが外れるごとに、琴音の胸元が露わになり、同時に、琴音の意識から「過去」という概念そのものが、侵食されていくのを感じた。
「やだ……」
か細い声が、琴音の唇から漏れる。それは、琴音に残された、最後の抵抗のようにも聞こえたが、もはや拒絶の意思は伴っていない。ただ、身体が不快感を示す、生理的な反応に過ぎなかった。舌はうまく回らず、言葉を紡ぐこともできない。
ブラウスの薄い布地がはだけ、慧の指が琴音の素肌に触れる。その感触は、ひやりとするはずなのに、琴音の熱を持った肌には、まるで炎が燃え移るかのように感じられた。身体の震えは止まらず、意思とは無関係に動く手足に、琴音は抗う術を完全に失っていた。
琴音の脳裏には、悠真の姿も、両親の顔も、もはや鮮明に浮かばない。かつて確かにそこにあったはずの、大切な記憶が、神酒の濁流によって押し流され、認識できないほどに薄まっていく。記憶が「失われている」という認識すら、曖昧になりつつあった。琴音の意識は、ただ目の前の快感と、一条慧の存在に集中していく。琴音の「過去」は、もはや遠い幻となり、存在しないものへと変わりつつあった。
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