第2章 意識の溶解

第5話 二度目の神酒と体温上昇

祭殿での儀式を終え、琴音は一条慧に手を取られ、奥の院にある特別な部屋へと誘導された。彼の硬く、しかし温かい手が、琴音の冷えた指先を包み込む。その温もりは琴音の心を微かに揺るがしたが、もはや抵抗する力は残っていなかった。


部屋の中央には、真新しい一組の布団が敷かれている。枕元には小さな卓があり、先ほど祭殿で交わしたのと同じ朱塗りの杯と、徳利に入った神酒が置かれていた。部屋の薄暗さが、琴音の心をさらに不安定にさせる。


慧は、琴音を布団の傍らに座らせると、静かに徳利に手を伸ばした。とろりとした琥珀色の神酒が、再び杯に注がれる。先ほど祭殿で口にした神酒よりも、その液体は妖しく輝いているように見えた。


「琴音さん、もう一杯」


彼の声は、祭殿で聞いた時と同じく穏やかで、しかしその裏には、逆らうことを許さない確固たる意志が感じられた。琴音は、まるで操り人形のように、その杯を受け取った。甘く濃厚な香りが、再び鼻腔をくすぐる。意を決して杯を唇に運び、ごくり、と一口飲み込む。喉を通り過ぎた神酒が、熱い塊となって胃の腑に落ちた。


その直後、慧がそっと琴音の杯を受け取ると、ゆっくりと顔を近づけてきた。彼の吐息が、琴音の頬に触れる。それは、先ほどまで感じていた外界の冷たさとは異なる、温かな湿気を帯びたものだった。琴音の心臓が、ドクン、と大きく跳ねる。


彼の唇が、琴音のそれに、ゆっくりと重なった。


そして、慧の口から、甘く熱い神酒が琴音の口内へと流れ込んできた。口移しで注がれる神酒は、喉を通り過ぎるたびに、体内の熱をさらに急上昇させていく。それは、酒の熱というよりも、もっと奥底から湧き上がるような、内なる灼熱だった。胃の腑から、まるで火が点いたかのように熱が広がり、皮膚の内側で血液が沸騰しているような感覚に陥る。


「……っ」


琴音の口から、か細い吐息が漏れた。視界が、ぐらりと揺れる。部屋の輪郭がぼやけ、一条慧の顔も曖昧に霞んだ。身体の体温が、急激に上昇しているのが分かる。顔の皮膚が熱を持ち、耳の裏側がじんじんと脈打った。呼吸が浅くなり、胸郭が細かく震える。アルコールのせいか、あるいは神酒に含まれる特殊な成分のせいか、意識はみるみるうちに模糊としていった。思考はまとまらず、目の前の現実が、まるで夢の中の出来事のように遠く感じられる。琴音は、彼のなすがままになるしかなかった。

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