第14話 親族による悠真の排除
水瀬家の玄関から響く悠真の必死な叫びに、琴音の心は激しく揺さぶられた。親戚の男たちに腕を掴まれ、身動きが取れない。琴音は、悠真の声が聞こえる方へ、必死に身体を向けた。
「琴音!俺は、お前を諦めない!出てきてくれ!」
彼の切羽詰まった声が、琴音の胸を抉る。今すぐにでも彼の元へ駆け寄りたい。この因習の檻から、彼の手を取って逃げ出したい。しかし、それは叶わない願いだった。
親戚の男たちが、琴音の抵抗を無視するように、厳つい顔で玄関の扉を開け放った。外には、雪が降り積もる中に立つ悠真の姿があった。彼は寒さにも構わず、琴音の家に向かって叫び続けている。
「貴様のような者が水瀬家の姫に近づくなど、言語道断!」
一人の親戚の男が、悠真に向かって怒鳴りつけた。彼の声は、村の権威そのものを背負っているかのようだった。悠真の顔が、怒りと絶望に歪む。
「村の掟を破る気か! この祭祀を汚すつもりか!」
別の男が、悠真の腕を掴み、問答無用で敷地内から引きずり出そうとする。悠真は必死に抵抗した。
「離せ! 俺は琴音に会う! 琴音をこんなところに置いておけるか!」
悠真の言葉は、琴音への純粋な想いが溢れていた。琴音は、悠真の姿を、親戚の男たちの背中越しに呆然と見つめることしかできない。彼の表情、必死な抵抗、そして痛みに喘ぐような息遣いが、琴音の目に焼き付く。
「学費の援助と引き換えに、村には一切近寄らないという約定を破る気か?」
親戚の一人が、悠真の耳元で冷たく囁いた。その言葉に、悠真の抵抗が一瞬、止まったように見えた。彼は、琴音に会うため、そして自身の学業を続けるため、この屈辱的な条件を受け入れたのだろうか。琴音は、その言葉の意味を理解しきれないまま、ただ悠真の顔を見つめた。彼の表情に、諦めと、しかし琴音への揺るぎない愛情が混じり合っているのが見て取れた。
「お前のような者が、水瀬家の未来を担う琴音様に近づくなど、決して許されぬ!」
親戚の男たちが、有無を言わせぬ力で悠真を雪の中へ引きずり出していく。悠真は、最後の力を振り絞るように、琴音の名を叫んだ。
「琴音っ!」
その叫びが、琴音の胸を抉った。琴音は、その場にいることしかできない自分の無力さに、全身が震える。悠真の姿が、雪の降る暗闇の中へと、だんだんと遠ざかっていく。琴音は、ただその光景を、目に焼き付けることしかできなかった。
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