第4章 最後の抵抗と排除
第13話 悠真の来訪
祭殿へと続く渡り廊下を進む琴音の足取りは、鉛のように重かった。昨夜から何も口にできていない身体は、今にも倒れそうにふらつく。冷たい雪の光が、祭殿の厳かな佇まいを際立たせていた。琴音の心は、すでに諦念に支配され、もはや何も感じないかのようだった。
その時だった。
「琴音!」
突然、水瀬家の玄関の方から、切羽詰まった男性の声が響き渡った。その声に、琴音の身体はびくりと震えた。聞き間違えるはずがない。悠真の声だ。
「琴音!琴音、出てきてくれ!」
彼の声は、混乱と焦燥に満ちており、琴音の心臓を激しく揺さぶった。諦めかけていた琴音の心の奥底に、一筋の光が差し込んだかのように、微かな希望が芽生える。悠真が、来てくれた。本当に来てくれたのだ。
琴音は、衝動的に玄関の方へ駆け寄ろうとした。彼の元へ、この檻から逃げ出せるかもしれないという、根源的な衝動が琴音を突き動かす。しかし、その前に立ちはだかったのは、村の有力者である厳つい顔をした親戚の男たちだった。彼らは、琴音の行く手を阻むように、通路を塞いだ。
「琴音様、お下がりください」
一人の男が、無表情に、しかし有無を言わせぬ圧で琴音に告げた。彼らの腕は琴音の腕を掴み、その力強い手から、逃れることはできない。琴音の胸中では、微かな希望と、抗いようのない絶望が激しくぶつかり合っていた。
悠真の声は、玄関の向こうから、今も必死に琴音を呼び続けている。
「琴音!俺は、お前を諦めない!出てきてくれ!」
彼の叫びは、琴音の心を深く揺さぶった。もし、今、彼の手を取ることができれば。しかし、親戚の男たちは琴音を祭殿から動かそうとせず、琴音はただ、悠真の声が響く方を見つめることしかできなかった。彼らの視線は、琴音の微かな抵抗さえも許さないと、無言で語りかけているかのようだった。
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