第6話 結婚前提の告白
夕焼けに染まる神社の境内で、悠真が琴音の目を真っ直ぐに見つめる。遠くから聞こえる祭祀の太鼓の音が、琴音の心臓の鼓動と重なって、不吉な響きを立てている。悠真は、その音に一瞬だけ怯んだように見えたが、すぐに強い意志を宿した瞳で、琴音に語りかけた。
「琴音……、俺は、ずっと前から、琴音のことが好きだった」
彼の声は、わずかに震えていた。琴音の心臓が、ドクン、と激しく跳ねる。知っていたはずの悠真の気持ち。それでも、彼の口から直接告げられると、全身の血が逆流するような衝撃が走った。
「初めて琴音を見た時から、お前のことが気になってた。いつも一歩引いて、自分の気持ちを隠してしまうお前を、ずっと傍で見てきたんだ」
悠真は、言葉を選びながら、しかし一途な思いを込めて話し続ける。彼の言葉一つ一つが、琴音の心の奥底に染み渡る。まるで、凍っていた琴音の心を、ゆっくりと溶かしていくかのようだった。
「俺は、高校を卒業したら、この村を出て、都会の大学に行く。そこで勉強して、いつかこの村にも新しい風を吹かせられるような人間になりたいと思ってる」
悠真は、まっすぐ琴音の目を見つめ、決意を込めた眼差しで続けた。
「そして、その時、俺の隣には、琴音にいてほしいんだ」
彼の言葉が、琴音の鼓膜を震わせる。頭の中が真っ白になり、何も考えられない。悠真の真剣な表情、希望に満ちた言葉が、琴音の心を強く揺さぶる。
「だから、琴音。俺と、結婚を前提に付き合ってほしい」
悠真の口から紡がれた、あまりにも重く、あまりにも純粋な言葉。琴音は、息を呑んだ。彼の覚悟と、琴音への絶対的な愛情が、その言葉一つに凝縮されているのが痛いほど伝わってきた。
全身が熱くなり、激しい動悸が琴音を襲う。耳鳴りのように悠真の言葉が響く中で、琴音の脳裏には、同時に別の光景がフラッシュバックした。父の厳しい視線、母の諦めたような笑顔、一条慧の誠実で揺るぎない眼差し。そして、大晦日の夜に待ち受ける、村の因習と祭祀の光景。
それらの全てが、悠真の告白と同時に琴音の意識に押し寄せる。琴音の心は、真っ二つに引き裂かれるようだった。愛する悠真との未来と、家と村のために課せられた運命。
「……っ」
琴音は、彼の真剣な眼差しから目を逸らすことができなかった。口を開こうとするが、喉が張り付いたように声が出ない。悠真の告白に対する喜びと、抗えない現実に対する絶望が、琴音の心の内で激しくぶつかり合っていた。夕焼けに染まる空は、もう深い茜色に変わり、静かに二人の上を覆っていた。
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