第2章 突然の告白
第5話 夕暮れの決意
大晦日の前日。空は鉛色に重く、今にも雪が降り出しそうだった。昨日一条慧と会って以来、琴音の心は一層重く沈み込んでいた。悠真との下校中も、いつもなら弾む会話が、今日はどこかぎこちない。悠真もまた、何かを言いたげに、しかし言い出せずにいるようだった。
「ねえ、琴音」
いつもの分かれ道に差し掛かる手前で、悠真が琴音を呼び止めた。その声には、いつもと違う、張り詰めた響きがあった。琴音は足を止め、不安な気持ちで彼を見上げた。悠真の顔は、夕暮れの薄暗がりの中で、どこか吹っ切れたような、しかし強い決意を秘めた表情をしていた。
「ちょっと、寄り道していかないか?」
悠真は、琴音がいつも訪れる秘密の神社の方を指差した。琴音は少し戸惑ったが、彼の真剣な眼差しに、逆らうことはできなかった。二人はいつものように石段を上り、古びた鳥居をくぐった。境内に満ちる冷たい空気が、琴音の肌を撫でる。
夕焼けが、村全体を茜色に染め上げていた。その色は、いつもなら郷愁を誘うはずなのに、今日の琴音には、まるで何かを告げているかのように、不吉な色に見えた。悠真は、桜の老木のそばにある、二人のお気に入りの場所に立ち、琴音の方へと向き直った。
彼の表情は、先ほどよりも一層真剣さを増していた。瞳の奥には、不安と覚悟が入り混じったような複雑な光が宿っている。悠真が、深呼吸をして、震える声で話し始める直前だった。
ドンドン……ドン……
遠くから、重く、規則的な太鼓の音がかすかに聞こえてきた。それは、大晦日の祭祀に向けた、試し打ちの音だった。琴音の心臓が、その音に合わせてドクン、と大きく脈打つ。祭祀の音が、悠真の告白の瞬間に重なる。まるで、抗いがたい運命が、二人の間に立ちはだかっているかのように。
悠真は、その音に一瞬だけ怯んだように見えたが、すぐに毅然とした表情に戻った。彼は、琴音の目を真っ直ぐ見つめ、その瞳に、揺るぎない決意を込めた。
「琴音……、俺は……」
彼の口から紡がれる言葉が、琴音の耳に届く。それは、琴音の人生を根底から揺るがす、決定的な言葉となるだろう。琴音は、固唾を飲んで、彼の次の言葉を待った。村を染める夕焼けの色が、一層濃く、そして深紅に染まっていった。
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