第3話 依頼主は司教
試験に合格した俺たちは晴れて冒険者になった。
冒険者にはランクが振り分けられており、一つ星から五つ星の五段階で分けられている。
俺たちのランクはもちろん、一つ星から。
あとはランクに適した依頼を受け、大きな評価と活躍のもと、ランクアップの試験を受けられるか判断し、ランクアップ試験を受けてランクが上がるらしい。
「おめでとうございます。これが冒険者の印となる冒険者バッチです」
手渡されたバッチには星が一つ刻まれていた。
これが冒険者の証。
正直言って、地味だ。
「地味って今、思いましたか?」
「え…………いや、そんなことは」
「この冒険者バッチは世界共通です。ランクによって受けられる待遇は違いますが、冒険者という身分が認められ、待遇を受けられますので、無くされないようお願いいたします」
「無くしたら?」
「ランクはリセット。再び、試験を受けてもらうことになります」
「それは面倒だな」
また試験を受けるなんて、そんな時間は俺たちにはない。
とりあえず、これで冒険者になれたんだ。
早速、依頼を受けて資金集めをしよう。
「可愛い受付さん、早速依頼を受けたいのですが」
「あ、はい。それでしたら…………」
と受付嬢が話始めると。
「待つのだっ!!」
食い気味にガタイの大きい男が背後から姿を見せる。
先ほど、試験を務めたバッツ・ガンドだ。
「改めて、冒険者ギルドに所属する試験担当のバッツ・ガンドだ。お前たちは、強者だ。そこいらの依頼じゃあ、話にならんだろう。そこでだ!この俺がお前たちに相応しい依頼を用意した!」
「ちょっとバッチさん!何を言っているんですか!!」
「戦った俺だからわかる。ユウ、お前の実力は最低でも三つ星以上だ。一つ星が受ける依頼では歯ごたえがないだろ?」
「は、はぁ……」
「それにその傍らにいるお嬢さんもただならぬ者の気配を感じるからな。がはははははははっ!!感謝するがよいっ!!」
高らかに笑うバッツに受付嬢はほほを引きつりながら口を開いた。
「そんなの認められません。冒険者ギルドには規則があって依頼は冒険者の星の数に対して一つ上が上限と決まっていますっ!」
「ええい、ルールに縛られては成長する冒険者も成長しないっ!ギルド長には俺が言っておくから、安心するがよいっ!!」
そういう本当にやめてほしい、言っている目を向ける受付嬢。
バチバチな二人をよそに。
俺たちはさっと一歩を引いた。
「おい、ティアナ、どうするんだよ」
「そうですね。できれば一気に大金を手に入れたいです(キラッ)」
キラッ。
じゃ、ないんだけど。
一気に大金ってまぁ、時間が限られているし、できれば一気に稼ぎたい気持ちはわかるが。
「とりあえず、バッチさんが提示する依頼の報酬金次第だな」
「そうですね。ではここは私が人脱ぎましょう。ユウ、ばっかり負担をかけるわけにはいきませんから。私たち、旅の仲間ですし」
サラッとウィンクをして、ティアナは二人の間に入っていった。
「コホンっ!お二人とも少しいいでしょうか?」
その響き渡る美声に二人が振り返った。
「私たち、少し事情がありまして、出来れば稼げる依頼を受けたいのです」
「ならやっぱり、俺の依頼が最適だ。だろ?」
「ですが、ルールがあって」
「そこは俺がギルド長に話を通すで解決だろ?」
「ぐぬぅぅぅ」
「可愛い受付さん、すいません」
ティアナが頭を下げた。
教皇様なのに、軽々と頭を下げていいものなのか。
いや、俺から言っていいことじゃないか。
「はぁ……わかりました、がっ!バッツさん、何かあったら、ちゃんと責任取ってくださいね。私は責任負いたくないですから。あとお二方の面倒を見ることっ!!」
責任絶対と取れっ!と言わんばかりの眼圧に思わず、よろけるバッチは冷や汗をぬぐった。
「あ、ああわかってるよ。だから心配するな。さぁ強者よ、早速だが、ついてくるがよいっ!案内したい場所がある」
「バッツさん、よろしくお願いいたします。ほら、ユウも」
「…………はぁ、よろしく」
「ふん、な~に、がっかりはさせない」
本当に大丈夫だろうか、そんな不安がよぎった。
□■□
バッツさんの案内されたのはボロボロな教会だった。
「な、なぜ教会?」
「依頼主が教会の人間だからだ。さぁ、強者よ、入れ。俺はここで待つ」
「わかったって何の説明もなしか!?」
「入ればわかる」
「いやいや、ふざけるな…」
食い気味にティアナが口を開く。
「いいではないですか、ユウ。バッツさんの指示に従ってみましょう、ね?」
「なんでティアナは平然と受け入れているんだ?」
もう意味が分からん。
だが、ふざけている、なんてことはさすがにないだろうし、ティアナは全然疑ってない。
なんか、俺が子供みたいで…………。
これ以上深く考えるのはやめよう。
結局、俺がいくら口出ししてもやることは変わらないわけだし。
「わかったよ、入ればいいんだろ、入れば」
「では、二人の幸運を祈っているぞ」
なぜ、幸運を祈られているんだ。
やっぱり、不安だ…………。
バッツさんに見送られ、俺たちは教会内に入った。
教会といえば、祀られている神は七神のうちの一柱だろう。
創神、剣神、龍神、技神、知神、死神、聖神。
世界の始まりはこの七神が創造し、知恵と技術を与えたことで発展したといわれており、世界が崇拝している神は大体七神。
たまに珍しい神を崇拝している者たちがいるらしいが、滅多に聞かない。
「ここは技神ヘイトを祀っている教会だな」
「そうみたいですね。しかし、なかなかに汚いというか、整備されていませんね」
サラッと周りを見渡すと、整備されていない小さな教会だ。
少し進むと技神ヘイトの像と…………。
聖職者と思われる衣服をまとった女の子が祈りを捧げていた。
「…………お客様でしょうか?それとも依頼を受けていただける冒険者様でしょうか?」
こちらを向かず、祈りを捧げながら口を開いた。
「はい、バッツさんの紹介で。依頼主はあなたで間違いないですか?」
ティアナは礼儀正しく言葉を返すと女の子は祈りをやめて立ち上がり、こちらを振り向いた。
その容姿と恰好を見て俺は思わず息を飲み込んだ。
青空のように明るい青い瞳とつややかな青髪、しっかりとした佇まい。
でもその姿勢から想像できないほど、隙がなく只者でないことは一目でわかった。
何より、驚いたのは彼女が右胸あたりに身につけている紋章だ。
「初めまして、冒険者のお二方。私はシャルラ・A・カルリア。技神ヘイト様を崇拝する技神教の司教を務めております。お気軽にシャルラとお呼びください。どうぞお見知りおきを」
司教、それは技神教の中でもかなり地位の高い人物だ。
なんで、司教がこんなところに。
「あ、ああ俺はユウ・アーティカ。こっちティアナだ」
「よろしくお願いいたします」
「ユウさんとティアナさんですね。立ち話もあれですし、どうぞこちらへ」
シャルラ司教が案内したのは隣にある一室だった。
内装は同じくボロボロだが、なぜか机とイスだけ綺麗だった。
なぜ、机とイスだけ…………わからん。
「お菓子とお茶をご用意しますので、椅子に座っておくつろぎください」
少しして、お菓子とお茶が運ばれ、シャルラ司教は椅子に腰かけた。
「さてと、どうぞ召し上がってください」
「はい、ではいただきます」
「え…………」
ティアナは躊躇なく出されたお菓子を食べて、お茶を飲んだ。
「美味しい」
「口に合ってよかったです」
普通は毒とか警戒するものだと思うんだけど。
いや、相手は司教だ。そんなことするはずがないか。
俺は若干抵抗気味だったが、お菓子とお茶をいただくことにした。
「うまいな」
「それは良かったです」
シャルラ司教もお茶を一口ほど飲み、机に置くと。
真剣な眼差しをこちらに向けた。
「さて、そろそろ依頼の話をしましょうか」
その一言でこの空間の雰囲気が一変したのだった。
偽勇者よ世界を乱せ~ 小鳥遊 @yasumitaide-su
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