第2話 冒険者になるための試験
ハバード王国、初代勇者の仲間の一人が建国した王国。
小国ではあるが、知名度が高く、観光客でよく賑わっている。
「すごい人の数だな。小国とは思えない」
「ハバード王国は初代勇者の仲間の一人、アンジルが有名ですから。たしか、アンジルの像を目的で来る人たちが多かったはずです」
「初代勇者の仲間ね。でも物語として描かれていないんだよな、初代勇者の魔王討伐の話……」
「一番古い戦いですから。そもそも残されている文献が少ないんです」
「なるほどな…………」
さすが教皇様だ。
よく知っていらっしゃる。
というか、クリフォード聖教国って初代勇者を選定した国だっけか。
そりゃあ、知ってるか。
「私も教皇として初代勇者のことを総動員で調査を命じてはいますが未だ、核心に迫る文献は見つかっていません。残されている文献はあくまで初代勇者の仲間3人だけです」
「その一人がアンジルで、初代勇者の仲間パワーで小国でもここまで盛んだと」
知らなかった。
というか、俺って地理と歴史とかそこら辺全然わかんないんだよな。
「言い方がひどいですよ、ユウ。天罰を下しますよ?」
「なんでだよ」
「いいですか、初代勇者は偉大な存在です。初代勇者様がいた時代は魔法がなかったとされています。そんな中、魔王を討伐したのですから、それはもう偉大なんです」
「…………わかった。ティアナが初代勇者のことを神聖視していることが」
「別に神聖視はしていないのですがってもたもたしてはいられません!さっさと冒険者登録を済ませましょう。魔王のもとへ向かうためにも資金は大事ですから」
資金、その言葉を聞いて肩に重くのしかかる。
「資金か、どうして教皇様がいるのにお金が足りないんだ」
「うっ……しょ、しょうがないでしょ。そもそもこの旅は私が秘密裏に計画していたもので、国の予算を使うのは難しんですから」
そこはどうにかしてほしかったけど。
俺は思わず肩をすくめた。
「というかティアナ、少し思うところがるんだが、自分が教皇だって隠す気ないでしょ」
「え、ありますよ。今の私には偽造魔法がかかっていますから。ユウ以外には別人に見えているはずです」
「あ、そうなんだ。通りで堂々としているわけだ」
ひとまず、方針はすでに固まっている。
魔王のもとへ向かうにもまずは資金が必要だ。
だからまず、冒険者登録を済ませ、次の国もしくは町に行くための資金を集める。
別に心配はしていない。
俺とティアナはかなり強い。下手な依頼を受けなければ、すぐにでも資金が集まるはずだ。
俺たちは少し歩き冒険者ギルドへと足を運んだ。
「ご用件は何でしょうか?」
ニコッと営業スマイル。
ティアナとはまた違う眩しさだ。
うぅ、ちょっと緊張するかも。
「私たち冒険者登録をしようと思いまして」
「冒険者登録ですね。承知いたしました。それではご案内いたしますね」
俺たちは冒険者ギルドの受付嬢の後ろについていき、大きな鉄の扉の前に到着した。
「すでにご存じかもしれませんが、冒険者になるためには冒険者ギルドが選んだ試験官と戦い、勝たなくてはいけません」
「え、そうなのか?」
「はいってご存じではなかったですか?」
「初めて聞いた」
「私は知っていましたよ」
「そうか…………え?」
サッと隣にいるティアナのほうを見ると、ニコニコと笑っていた。
それはもう楽しげに。
こいつ、わざと教えなかったな。
「ユウ、今この世界にはたくさん冒険者がいますが、ここ最近さらに数が多くなっていて、それ危惧した冒険者ギルドが試験を設けて、一時的に数を制限しているんですよ。ね、可愛い受付さん」
「あ、はい、そうなんです。よく知っていらっしゃいますね」
「冒険者を目指す者として当然のことですよ、ユウ」
「いちいち、俺の名前を出すな」
そんな会話をしている中、受付嬢はコホンっと気を取り直して、話を続けた。
「それではお二人とも幸運を祈っています。この先には試験官がいますので、その人の指示に従ってください」
「自信、あります?」
「ティアナのほうこそ」
「私はもちろん、ありますよ」
「俺もだ」
ゆっくりと鉄の扉を開くと、そこは小さな闘技場だった。
真ん中にはいかにも試験官ですよと、主張している体の大きい男が仁王立ちしていた。
「お前たちだな。愚かにも冒険者を夢見る者は」
「「…………」」
「冒険者になりたくは俺と戦え。勝った者は冒険者になることを認めよう。だが、俺は強いぞ」
さてと、どうしたものか。
「それはあれか、二人で戦ってもいいのか?」
「どっちでもよい…………が、まぁ、二人で協力して挑むことをお勧めするぞ」
ルールが曖昧過ぎる気がするが。
しかし、どっちでもいいのか。
なら…………。
「ティアナ、ここは俺一人でやるから、下がってろ」
「援護はいらないのですか?」
「いらん。それにこいつ相手にティアナの魔法を使う必要はない」
一応、教皇だからな。
偽装魔法がかかっているとはいえ、下手に目立たないほうがいいだろうし。
「もしかして、格好つけてますか?」
「…………はぁ?」
「がはははははっ!お嬢さん、男というのは女の子の前ではかっこいいところを見せたがるものだ。だがその姿勢は気に入ったぞっ!!」
「なるほど…………ユウ、私にかっこいいところを見せたかったのですね」
「ち、違うっ!勘違いするなっ!ほら、これをもっとけ」
そう言って俺はティアナに鉄剣を預けた。
「うん?貴様は剣士であろう。なぜ剣を…………」
「お前相手に剣を使う必要がないだけだ」
食い気味な返答に試験官の眉間にしわが寄った。
「ほう、貴様、名前は?」
「ユウ・アーティカだ」
「そうか、ユウ。俺はバッツ・ガンドだ。貴様の舐めた口をこの俺がふさいでやろ」
背中に背負っていた大きな大剣を軽々振り回し、剣先を俺に向けた。
「できるものならな」
俺は両拳を握りしめ、構えた。
「ほう格闘術?いや、どこか違うな、どこかで…………ぐっがはははははははっ!!まぁいい、叩き潰す!!」
「バッツさん、知ってるか、弱い犬ほどよく吠えるんだと」
「そうかっ!!」
バッツは大剣を軽々振り下ろす。
単調な攻撃に俺はすかさず軸をずらし、バッツの懐に入り込む。
が、次の瞬間、真横から大剣の攻撃が迫る。
早いな。
思わず、称賛してしまうが、その攻撃すら最小限の動きでよける。
バッツもその動きに目つきが変わった。
「今の一撃……よけられたのは久しぶりだ」
「がたいのわりに早いな。素直に驚いた」
「ふん、何十年大剣を振るってきたと思っている!が、それはこっちのセリフでもあるぞ」
試験官を務めるだけあって実力はある。
大剣だからと侮っていたら、確実にやられる。
「長引かせるのもあれだし、そろそろ試験を終わらせよう」
「来るがいいっ!!」
バッツのその言葉を合図に片足を蹴り上げ、一気に距離を縮める。
その動きに合わせて、バッツは一歩後ろに下がり大剣を振り下ろした。
その瞬間、ガツンっと鈍い音が闘技場に鳴り響いた。
それはバッツの手から大剣が離れ、地面に突き刺さる音だった。
バッツは何が起きたのか、思考が停止する。
その隙に俺は腹部にそっと手を添えて。
グッと勢いを乗せて、バッツを後方へ吹き飛ばし、膝をつかせた。
「うぅ…………い、今のはそうか、どこかで見たことがあるかと思ったら、その構え・動き、傭兵式格闘術。しかも……うぅ、オリジナルだな」
「ん…………よく知ってるな」
傭兵式格闘術、傭兵になる際に最初に叩き込まれる格闘術。
だいたいは傭兵式格闘術を改良して、各傭兵団の武器としている。
その中でも俺が使っているのはオリジナル。言ってしまえば、傭兵式格闘術の原型であり、今の時代、どこの傭兵団も取り入れていないマイナーな格闘術だ。
「昔、コテンパンにやられたことがあってな。しかしだ、唯一、オリジナルの傭兵式格闘術を扱う傭兵団【
「あんなマイナーな格闘術なんてあってもなくてもどうでもいいだろ。それよりもだ」
腹を抱え、膝をつくバッツに俺はゆっくりと近づき、目線を合わせる。
「俺たちの勝ちでいいよな」
「くぅ……認めよう。お前たちを冒険者として認めよう」
「まあ、当然だな」
まさか、オリジナルの傭兵式格闘術を知ってるなんてな。
まあ、辺に詮索されなければいいか。
「やりましたね、ユウ。これで晴れて私たちは冒険者ですね」
「…………そうだな」
こうして、俺とティアナは冒険者になったのだった。
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