第26話 プールでお化けで終わる初日
――そして夜。
ヴィラのテラスからは、青くライトアップされた専用プールが静かに輝いていた。
「わぁぁぁ……! きれい……♡」
水面の下から光が差し込んで、まるで青い宝石箱みたい。
昼間のビーチとは全然違う、しっとりした雰囲気に、私のテンションはまたしても上昇中!
「白洲さんっ! 一緒に入りましょう!」
「私は……」
いつものように断られるかと思ったけれど、白洲さんはほんの一瞬考えて――
「……少しだけなら」
「やったーーーっ♡」
私はバシャーン!と勢いよく飛び込み、水しぶきを上げる。
続いて、静かに階段から入ってくる白洲さん。その落ち着いた動作すら、なんだか映画のワンシーンみたいで、つい見惚れてしまう。
けれど――。
ここでぼーっとしてる場合じゃない! このスーパーロマンチックな雰囲気!!
今夜こそ――キスいけるのでは!? その一線を越えるチャンスなんのかもしれないっ!!
私の恋は――夜のプールで、キスから始まる……!!
「白洲さん、こっちこっち♡」
私は彼の手を取って、向かい合う形で繋いだ。プールの真ん中、青い光に包まれて、二人きり……。
心臓がドキドキしすぎて、息が詰まりそう。
手の温かさ、視線の高さ、全部が「今ならいける」って囁いてる。私はゆっくりと、顔を近づけて――
「……心愛さん。我々、肝試しをしているように見えませんか?」
「へっ……?」
間抜けな声が出た。
「この照明、下から当たって顔が強調されるでしょう。プールに入ってみると……お互い、随分と怖い顔に見えます」
「……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」
そんなバカな……!?
私はヴィラの大きな窓に映る二人の姿を確認してみる。
……あっ、これ、思ったより怖いやつだ。
いや確かに……下からライトで照らすって、ホラー映画や肝試しの定番演出だけど!
白洲さんの顔を見上げる。
掘りの深い顔立ちに、下からのライト。
……威厳を通り越して、もはや怪異。
これ、私の夢見ていたファーストキスなのだろうか……。
「ところで、手を繋ぐのにはどういった意味があるのでしょう?」
「わ、私が溺れるかもしれないので」
「……わりと泳げていたと思いますが」
「う、海とプールは違いますので!」
「なるほど」
光の演出に負け、言い訳に負け、私は今――とても冷静である。
プールの照明は時間とともにコロコロと変わる。
青い照明では幽霊ごっこ、オレンジの照明では溶鉱炉に沈むロボットごっこをして遊んでいた。
……ヤケクソですよ! もう楽しんだもの勝ちでしょ!?
白洲さんはその間、ちゃぷちゃぷと泳ぎながら――
「いいですね」
「雰囲気、出てます」
とか冷静にコメントしてくれた。
……白洲さんが楽しんでくれていたら、それだけで、いいなぁ。
* * *
その後、ヴィラでの食事を楽しんだ私は、お酒も入ってちょっとフワフワしていた。
白洲さんも、もしかしたら少しはフワフワしてるかも! いや、よく分からないけどたぶん!!
このノリで押せば、意外と何とかなるかもしれない……!
「白洲さん……。一緒に、寝ませんか……?」
――勇気を振り絞って言った。
だって、旅行でお泊まりなんですよ!?
夜のお布団イベントは王道中の王道じゃないですか!!
ところが――
「……いえ、部屋は別々ですよ」
ばっさり。
ばっさり一刀両断された。
白洲さんはテキパキと寝る準備をしている。
……そういえばこの人、お酒に酔ったことないとか言ってたなぁ。
分かってはいたけど、くすん。
私は自室のベッドに、友人3人からもらったコンドームの箱を抱いて転がった。
「みんな……私に力を!!」
……いや、ないわー。
私は抱えていた箱をぽーんと投げ放ち、とっても大きいため息を部屋の天井に吹きかけた。
しんと静まり返った天井に向かって、心の声がこぼれる。
「……ほんと、恋ってむずかしい」
酔った頭の中に、友人3人の顔がぼんやりと浮かんだ。
そして――揃って、冷静なツッコミを入れてくる。
『いや、先に付き合えよ』
……ぐぅの音も出ませんでした。
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