第4章 第10話「勝者の代償」


轟音の余韻が、ようやく空に溶けた。


焦げた匂いと、金属が焼ける残響が、静まり返った空域に満ちる。

グランゼム・ドランの残骸がゆっくりと煙を上げ、ZAIN‐01はその中心に静止していた。


コックピットの中で、佑真は長く息を吐いた。


(……終わった)


たった4機。されど、ロシア軍の“切り札”とまで呼ばれた精鋭AC部隊。

それらをすべて撃破したのは、スレッドゼロ――高校生たちの小さな独立部隊だった。



「ロシア軍、降伏したぞ!」


管制室に歓声が上がった。

情報班員が立ち上がり、戦況を確認する。


「各都市が占領されていく……もう組織だった指揮系統は残っていないようです」


司令官・諏訪部静馬は目を閉じ、短く「……撤退だな」と呟く。


その情報は瞬く間にネット上に拡散され、

スレッドゼロの戦闘記録は各国の軍事ネットワークを通じて、全世界に知れ渡った。


とくに注目されたのは、ZAIN‐01の異常機動、VELTINE‐03のゼロ距離狙撃、NOESIS‐02の戦術精度。


そして、SYLPHID‐04の正確無比な火力運用。


「日本軍とアメリカ軍、スレッドゼロに関する警戒レベルを引き上げたとの報告が……」


総士がその報告を受けたとき、ただ「想定内だ」とだけ答えた。



――その翌日。


焼津市・スレッドゼロ拠点の格納庫には、久々に落ち着いた時間が流れていた。

パイロットたちに与えられた、わずか一日の休暇。


佑真はZAIN‐01の前で腰に手を当てて立っていた。


「さすがに限界まで使いすぎたな、ZAIN……でも、ありがとう」


「感傷に浸ってる場合じゃねぇだろ。どうせまたすぐ戦場だ」


後ろから声をかけてきたのは裕太。

その隣では、綾杜が愛機VELTINE‐03のスコープ調整をしていた。


「俺は次、長距離対応の予備砲を搭載する。距離の取り合いはもうゴメンだ」


「俺はミサイル追加しようかなー。ちょっと変化球がほしいし」


裕太が肩をすくめ、明るく笑う。


「で、佑真は?」


「……剣、もう少しだけ、重くしてもいいかもしれない」


佑真はそう言って、右腕に装備されたZNソードの鞘を撫でた。


総士が格納庫に姿を見せる。


「お前ら、次の作戦会議は明朝0800だ。それまでに改修案を出しておけ」


「隊長……少しくらい休もうぜ」


「これが休みだ。あとは寝ろ。今は、“次”の準備をする時間だ」


冷静なその目に、あの決闘の熱がまだ消えていないことが、全員にはっきりと伝わった。



夕焼けのオレンジが格納庫の壁を照らす中、

スレッドゼロのパイロットたちは、各々の機体と向き合い、再び武器を握る準備をしていた。


戦争は、まだ終わっていない。


そして――

次に名指ししてくるのは、かつての“同胞”かもしれない。




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