第4章 第3話「1st Duel:火と鋼の牙」



――松本上空、決闘空域。


【SYLPHID‐04】と、それに向かい合う巨躯のAC。

全体を赤銅色の装甲で覆ったその機体の名は――【サハクイ・バルテウス】。


「久しぶりだね、裕太くん」


通信から聞こえてきたのは、透き通った少女の声だった。


「……寧々?」


パイロットの名は橋本寧々。

かつて、裕太と同じ高校で、同じクラスだった。


今はロシア側へと渡り、精鋭部隊“紅の牙”の1機を任されている。


「まさか、あの冴えない裕太くんがACに乗ってるとはね。びっくりしちゃった」


「……俺も、お前が“敵”になるなんて思ってなかったよ」


「決闘だもん。手加減しないよ」


バルテウスが、ゆっくりと腰を落とす。

その姿勢は、重戦車のような安定感と、獣のような迫力を併せ持っていた。


「こっちも遠慮しねぇよ」

裕太の目に迷いはなかった。


かつての無力さは、今日ここで断ち切る。


「戦闘、開始!」

審判機の合図と同時に、地面が震えた。


バルテウスがミサイルを四方へ発射。

煙幕が一面に広がり、爆音が鳴り響く。


「読めてる……!」


SYLPHID‐04が地を滑るように前進。

撹乱用のバズーカで反撃し、同時に右肩のミサイルを牽制として放つ。


《戦術パターン確認。バルテウス、妨害型AC》

AIの読み通り、彼女のスタイルは“俺と同じ”――


(でも、俺はもう……怯えない)


砲撃をすり抜け、正面から突っ込む裕太。

寧々の表情が、微かに変わる。


「直線で来るなんて、昔と違って大胆なんだね……!」


バルテウスの肩部砲門が回転する。

重装バーストが迫る中、裕太は回避行動を取らず、逆に跳んだ。


「ここだっ!」


上空からミサイル連射。

バルテウスの肩部装甲が破壊される。


「……へぇ、やるじゃん」


「“昔の俺”と戦ってるつもりなら、すぐに後悔するぞ」


眼下、炎と煙の中で両者のACが激突する――



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