第1章 第9話「霜月の門、発令」
作戦当日。
焼津地下基地の格納庫に、緊張した空気が満ちていた。
「スレッドゼロ、出撃準備――完了しました」
報告するのは技術主任の赤沼梓。
4機のACが整備リグの上で光を放ち、エネルギー転送ラインが接続されていく。
ZAIN‐01の白い装甲も、すでに出撃仕様に切り替わっていた。
佑真は、最後の点検を終えてコックピットへと乗り込む。
その途中――ふと、格納庫の隅で川瀬葵が手を振っているのに気づく。
「佑真くん! ほら、お守り!」
手渡されたのは、小さなストラップだった。パーツ廃材を削って作られた、手作りの剣。
「これ、ZAINの肩パーツの余りで作ったの。ちゃんと帰ってくるまで壊さないこと、約束!」
「……ありがとな。絶対、帰ってくるよ」
微笑み合った後、佑真は機体へと戻る。
一方、ブリーフィングルームでは、諏訪部静馬が最後の作戦説明をしていた。
「今回の作戦名は《霜月の門》。
戦場は旭川、及びその周辺都市。日本軍とロシア軍が入り乱れており、正規指揮系統は崩壊している。
我々の任務は“戦争の停止”だ。日本軍とロシア軍、両方のAC部隊を“制圧”する」
「……敵は全員、有人機だよな」
総士が確認する。
「そうだ。だが、殺すのが目的ではない。戦意を削ぎ、後方へ退かせる。それができなければ……」
静馬は一瞬、言葉を切った後、冷たく続ける。
「……撃て。撃たなければ、死ぬだけだ」
沈黙が落ちる。
それを破ったのは、大橋裕太だった。
「よっし! じゃあ俺、敵レーダー部隊ぶっ壊してくるわ!」
陽気な声に、一瞬だけ空気が緩む。
「後方支援は任せるよ」と綾杜が冷静に続く。「ZAINが前に出やすいよう、射線は整理する」
「……ああ、頼む」
佑真は、ZAINの起動パネルに手をかけながら、小さく息を吐いた。
これから殺すかもしれない。
殺されるかもしれない。
それでも――行く。
「スレッドゼロ、全機出撃準備完了。これより発進シークエンスを開始する」
静馬の声が、発令室全体に響く。
「行け。世界を止めに行け。……それが、お前たちの“意味”だ」
出撃ゲートが開く。
寒風の中、ACが一機、また一機と浮上し、夜明け前の空へと飛び立っていく。
その先に待つのは、雪と硝煙の大地――北海道。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます