第1章 第8話「情報の断片」



焼津基地・戦術管制室。

無数のホロスクリーンが浮かび、赤と青の戦況ラインが刻一刻と形を変えていた。


「……また、動いたか」


諏訪部静馬が短く呟いた。背後の大型ホログラムには、日本列島の北端――北海道の地形データが投影されていた。


「道央地域一帯で激しい衝突が続いています。旧日本軍残存部隊と、ロシア第三陸戦連隊。

 都市部のほとんどが戦闘区域に変わり、民間人の避難も不可能な状態です」


情報将校の望月圭が、淡々と報告する。


「……民間被害の数字は?」


「現在確認されているだけで、死傷者は1万を超えます。しかもAC部隊同士の戦闘は“すべて有人機”。

 つまり――全員、“殺し合っている”ということです」


静馬は目を細めた。


「なるほど。これがただの戦争ではなく、“崩壊の連鎖”の始まりか」


直後、作戦室に4人のパイロットが呼び出された。


「……北海道だと?」

総士が眉をひそめる。


「旧日本軍とロシアがガチでやり合ってるって、それ、もうただの局地戦じゃねーぞ」

裕太も真顔になる。


「巻き込まれてる市民が多すぎる」と綾杜。「放っておくべきじゃない」


その全てを聞いた佑真は、静かに前を見つめていた。

ZAIN‐01のデータに、戦地の座標が入力される。


「……行くんですよね、司令」


「当然だ」と静馬は答える。


「スレッドゼロは“独立勢力”だ。正義や理念では動かない。ただ“止める”。

 この崩壊した世界で、戦争をこれ以上連鎖させないために」


静馬はさらに言葉を重ねる。


「ただし、忘れるな。敵のACはすべて“有人機”だ。

 お前たちが戦場で相対するのは、“機械”ではない。“人間”だ。命の覚悟を持て」


誰も返事をしなかった。

その代わりに、4人の視線だけが静かに交差した。


「作戦開始は48時間後。目標地点は旭川、及びその周辺都市。

 作戦名――《霜月の門》。武力介入、開始だ」



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