第1章 第10話「北の戦場にて」



雪の降りしきる旭川。

白銀の大地に、咆哮と爆音が轟いていた。


「ZAIN、前へ出る!」

佑真は叫び、白のACを滑らせるように走らせる。


その進路を守るように、後方ではVELTINE‐03が正確な狙撃を続けていた。


「上、撃ち落とす」

綾杜の静かな声が届いた直後、ビルの屋上から発射された敵ミサイルポッドが一撃で吹き飛ぶ。


「佑真、左斜線クリア! 進め!」


同時にSYLPHID‐04の電子ジャミングが敵情報部隊の通信を分断する。


「うし、レーダー撹乱中! 奴ら、右も左もわかってねーぞ!」


後方ではNOESIS‐02が味方の動きを補い、全体の火線を制御する。


「ZAIN、突っ込みすぎるな。後衛と連携しろ。あくまで一点突破――隊形を崩すな」


総士の指示に即座に反応し、ZAINが滑るように方向転換する。


連携は完璧だった。

敵AC部隊は散り散りになり、戦線は押し返されつつあった。


だがその時――


「……っ、なに、あれ……?」

綾杜の声に混じる、珍しい困惑。


雪煙を切り裂き、巨大な黒い影が出現した。

機体というには異形すぎる。だが、それは確かに“人間を殺すために設計された何か”だった。


四枚の展開式主翼、鋭利すぎる機首、機動ブースターの唸り――

そして機体中央に座す、コクピットハッチ。そこには人が乗っている。


「対AC戦闘機体……? 無人じゃない……あれ、パイロットいるぞ……!」


「ロシア軍の新型だ」

総士の声が低くなる。


「型番不明……だがコードネームは“ハシュマル”。ACを殺すためだけに作られた、飛行特化・火力特化の怪物だ」


ハシュマルが一気に加速し、ZAINへと突進してくる。

信じられない速度、空間制圧力。機銃が唸り、ZAINの脚部装甲が裂けた。


「ぐッ――!?」


衝撃が体内に響く。コクピット内で血の味がした。


「佑真、退け!」

「やばいぞ! あれ……ACじゃねぇ! 動きが……!」


だが、ZAINは止まれなかった。

“自分が止まったら、他の誰かが死ぬ”

その本能が、刃を振るわせる。


斬撃。

だが弾かれる。ハシュマルの装甲は“対近接特化”。ZAINのブレードを受けても、わずかに傷を刻むだけ。


「クソ……っ、当たってんのに……通らねぇ……!」


そして反撃。

主翼から展開されたミサイルポッドがZAINを直撃。視界が閃光で埋まる。


通信が歪む。警報が鳴る。

それでも、佑真は倒れなかった。


「まだ、だ……ここで止まるわけには……!」



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