第3章 第2話「新たな色」



格納庫の空気は、火花と油の匂いに満ちていた。


大型リフトに載せられたパーツ群――それは、かつて北海道でスレッドゼロを追い詰めた、ロシア製対AC兵器ハシュマルの残骸だった。


「見事なまでにブッ壊れてたけど、素材は高性能。うちの子たちの補修にはちょうどいいのよ」

整備主任・赤沼梓が、口元をほころばせる。


「……皮肉なもんだな」

裕太が呟く。


「ぶっ壊された側なのに、その破片でまた立ち上がるなんてさ」


「でも、俺たちはやる。次は、負けないために」

綾杜が、静かに言葉を継いだ。


3機のACが、再構築されていく。

そして、それぞれが新たな“色”をまとう。



【VELTINE‐03】

漆黒を基調に、鈍く光る暗ピンクがラインとして走る。

破損した狙撃モジュールは新型に換装され、より正確かつ反応速度の速い狙撃が可能になっていた。


綾杜は静かに見上げる。


「……この色、悪くない」


「君には派手すぎるかと思ったけど」

赤沼が笑うと、綾杜は珍しく口元を緩めた。


「いや、ちょうどいい。闇に溶け込む毒って感じで」



【SYLPHID‐04】

これまでの白基調から一変し、艶やかな漆黒に、冷たい青の光が走る。

電子戦装備は強化され、撹乱能力が倍増していた。


「うおっ、めっちゃカッコよくなってる!」

裕太は両腕を挙げてはしゃぐ。


「まじで“夜の疾風”って感じじゃね? 俺、これ好きだわ」


「見た目に負けないように、ちゃんと動かせよ」

綾杜の一言に、「うるせぇ」と笑いながら返す。



【NOESIS‐02】

指揮官機にふさわしく、威厳ある黒に鋭い紫の縁取り。

制御系と索敵システムを新調し、指揮・支援性能はさらに洗練された。


総士は黙って機体を見上げる。


「いい色だな。冷静で、威圧的。……お前らしい」

佑真が隣でぽつりと言った。


「……お前も、派手になったもんだな。白に黄色なんて、まるで……」


「目立つヒーローみたいだろ?」


ふたりは、少しだけ笑った。


新たな色。それは、敗北の証でもあり、次なる決意の象徴でもあった。


この機体たちは、次の戦場へと向かう――



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