第2章 第10話「最初の勝利」



空気が、張り詰めていた。

超軽量機動型――“オーバーロード・ヴェルナー”が、獲物を狩る獣のように、雪原を滑る。


「来るぞ、佑真……!」


「わかってる――!」


ZAIN‐01が左右にステップを切る。数十発の高速射撃を浴びせるも、すべてを回避。

ヴェルナーはそのまま、ノンブーストで滑空するように突っ込んできた。


「こいつ……反応速度もおかしい……!」


それでも佑真は止まらなかった。


「俺たちは――ここで負けるわけにはいかない!」


ZAINが急上昇、ヴェルナーの死角に回る。

その動きに呼応するように、NOESIS‐02が正面から敵を引きつけ、ヘッドユニットに直接スモーク弾を撃ち込む。


「今だ、佑真!」


「――もらった!」


ZAINが旋回しながら、両腕の拳銃をフルバースト。

弾丸が敵の関節部に集中する。


だが、ヴェルナーは反撃してくる。

その動きが、目に見える。


(読める……こいつの軌道……!)


佑真は視線を逸らさない。


「右前脚、断裂……!」


総士の読み通り、ZAINの弾丸がヴェルナーの脚を貫いた。


「ッらぁあああああっ!!」


最後の弾丸が、ヴェルナーの頭部を撃ち抜いた瞬間――その機体は、崩れるように沈黙した。


静寂。


数秒ののち、ZAINとNOESISが並ぶ。


「……終わったな」


「……ああ、やっと、だ」


勝利の報告が、基地に届く。


しかし、それは“喜び”よりも“安堵”だった。



数時間後、焼津基地。

綾杜と裕太の機体は帰還不能。2人は軽傷ながら、担架で運ばれていた。


「生きてる……よかった」

ベッドに寝たままの佑真は、小さく呟く。


その言葉に、総士は短く返す。


「これが、最初の勝利だ。だが……ここが始まりでもある」


その言葉の意味を、誰よりも佑真は知っていた。


血と、汗と、叫びの先にあるもの。

それでも、自分たちは進むと決めた。


この戦いの名は――


スレッドゼロ、最初の勝利。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る