第2章 第6話「揺れる想い」



「……痛みは、引いてきてるけど」

医療ベッドの上、佑真は自分の右肩を見つめていた。


固定具に包まれたその腕は、まだ自由には動かない。


ベッド脇の椅子に座るのは――総士だった。


「動けなくて、すまん」

佑真の言葉に、総士は首を振る。


「謝るな。あの時、お前がハシュマルを止めなきゃ、俺たちは今ここにいない」


佑真は目を伏せ、ぽつりと呟く。


「……それでも、悔しいんだ。皆が戦ってる時に、俺は何もできない」


「なら、治せ。誰よりも早くな」

総士は、短くも確かな声で言った。


「お前はZAINのパイロットだ。それは誰にも代われない」


佑真は、その言葉に静かに頷いた。



別室。修理中のVELTINE‐03を見上げながら、綾杜はふと思う。


(本当に、これで良かったのか?)


あの戦闘で、自分は何人の命を奪った?

見えなかった敵兵の中に、帰りを待つ誰かがいたかもしれない。


だが、迷っていた時、綾杜の背後から声がした。


「なぁ、綾杜。お前ってさ、ちゃんと“痛み”わかってるよな」

裕太だった。


「俺、ああいうのわかんねぇからさ。撃つとき、何も考えねぇ。だけど……お前がいてくれて、助かる」


綾杜は言葉に詰まりながら、苦笑する。


「……じゃあ、僕がちゃんと悩むよ。お前の分も」


「おう。んで、お前が迷ってる時は、俺が引き金引く」


ふたりは、笑い合った。



その夜。

焼津の海沿いに立つ静馬は、遠く暗い水平線を見つめていた。


「……歪み始めているな。世界も、人間も」

彼の声は、風に消えた。


スレッドゼロ。

その名が意味する“ゼロからの糸”。それが結ばれていくのは、希望か、それとも破滅か――



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