第2章 第6話「揺れる想い」
「……痛みは、引いてきてるけど」
医療ベッドの上、佑真は自分の右肩を見つめていた。
固定具に包まれたその腕は、まだ自由には動かない。
ベッド脇の椅子に座るのは――総士だった。
「動けなくて、すまん」
佑真の言葉に、総士は首を振る。
「謝るな。あの時、お前がハシュマルを止めなきゃ、俺たちは今ここにいない」
佑真は目を伏せ、ぽつりと呟く。
「……それでも、悔しいんだ。皆が戦ってる時に、俺は何もできない」
「なら、治せ。誰よりも早くな」
総士は、短くも確かな声で言った。
「お前はZAINのパイロットだ。それは誰にも代われない」
佑真は、その言葉に静かに頷いた。
*
別室。修理中のVELTINE‐03を見上げながら、綾杜はふと思う。
(本当に、これで良かったのか?)
あの戦闘で、自分は何人の命を奪った?
見えなかった敵兵の中に、帰りを待つ誰かがいたかもしれない。
だが、迷っていた時、綾杜の背後から声がした。
「なぁ、綾杜。お前ってさ、ちゃんと“痛み”わかってるよな」
裕太だった。
「俺、ああいうのわかんねぇからさ。撃つとき、何も考えねぇ。だけど……お前がいてくれて、助かる」
綾杜は言葉に詰まりながら、苦笑する。
「……じゃあ、僕がちゃんと悩むよ。お前の分も」
「おう。んで、お前が迷ってる時は、俺が引き金引く」
ふたりは、笑い合った。
*
その夜。
焼津の海沿いに立つ静馬は、遠く暗い水平線を見つめていた。
「……歪み始めているな。世界も、人間も」
彼の声は、風に消えた。
スレッドゼロ。
その名が意味する“ゼロからの糸”。それが結ばれていくのは、希望か、それとも破滅か――
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