第1章 第7話「訓練と観測」



訓練場は、焼津郊外の山林地帯を改造した屋外演習フィールド。

人工衛星の死によって外部からの監視が届かなくなった今、戦場はどこにでも作れる。

それは利点であり、同時に終末を感じさせる現実でもあった。


「全員、準備はいいな? 本日より、佑真を加えた編成訓練を開始する」


通信に入った池谷総士の声は、いつになく冷静だった。


ZAIN‐01のコックピット。

白に塗り替えられた視界は、わずかに明るく感じた。だが、その中で佑真の手は震えている。


「深呼吸しろ、佑真。訓練は死なないためにやる。死なせないためにやるんだ」


総士の声が、佑真を地に戻す。


「――了解。ZAIN、出る!」


起動音。白い閃光が演習場を駆け抜ける。

ブレードを構えたまま、ZAINは先行して飛び出す。滑らかな加速。地を蹴る感覚が“楽しい”と錯覚するほどに、身体に馴染んでいた。


だが――


「後方、ブラインドから回り込み。対応できるか?」


綾杜の通信。即座にモニターが警告を発する。

ZAINの背面に、スナイパーAC“VELTINE‐03”の照準が重なる。


「――くっ!」


即座に左右へステップ。だが、弾道は読まれていた。脚部にかすり傷。モーターの警告音が鳴る。


「ZAINの長所は速度、近接対応、直感的な回避能力。だが、お前はまだ“勘”に頼りすぎてる」


後方から大橋裕太の“SYLPHID‐04”が支援ジャマーを展開。ZAINのレーダーが一時死ぬ。


「支援妨害下で動けるか? 本番じゃこれが常だぜ~?」


「うるせえ……!」


咄嗟に飛び出す。ZAINは煙幕を抜け、両腕のブレードを交差させる。

目標は最も遅い“NOESIS‐02”――総士のAC。


「突っ込んできたか、いい判断だ」


だが、読み切られていた。総士はZAINの突進をかわし、側面へ。

そして肘の下から電磁ナックルで反撃。ZAINが吹き飛ばされ、地面を転がる。


訓練終了のブザーが響いた。


「はぁっ、はぁっ……マジかよ……」


天を仰ぎながら、佑真は悔しさに唇を噛む。

勝てると思った。けれど全て、読まれていた。


ZAINは強い――だが、乗っている自分はまだ、追いついていない。


「悪くない」と総士が言った。


「攻めの判断はいい。感覚も鋭い。だが、“情報”と“連携”を置いてきてる。

 そこを埋めれば、ZAINはもっと強くなる」


佑真は、ゆっくりとうなずいた。


自分はまだ“未完成”だ。だが、完成させられる。

この仲間たちとなら、きっと。


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