第1章 第5話「初陣の代償」
ミッション終了から、およそ二時間後。
ZAIN‐01は焼津地下格納庫へ帰投し、整備リグに固定されていた。
佑真は、コックピットから降りた瞬間、膝から崩れた。
「お、おい! 大丈夫かよ!」
駆け寄ってきたのは、整備主任の赤沼梓だった。
だが、佑真は答えなかった。ただ、自分の手を見つめていた。
あの敵機を斬った感触。腕を貫いた衝撃。
爆発の余波。熱と光と破片。
「……俺……殺したんだよな……」
小さく漏らした声に、整備班の空気が凍った。
「敵を、ACを、壊した……じゃなくて……
中に人がいた。……あいつらだって、生きてたんだろ……」
誰も、言葉を返さなかった。
その場にいた誰もが、かつて通った道だった。
「そうよ」と、低く、穏やかな声が聞こえた。
ゆっくり歩いてきたのは、医療班の責任者――御崎千尋だった。
白衣の袖をまくり、無表情のまま、佑真の前に膝をつく。
「あなたは今日、人を殺した。そして、誰かを救った。それは事実。誰にも否定できない。
でも、それであなたが壊れるなら――私はそれを止める」
「……俺は……」
「心が動くうちは、まだ人間よ。鈍らないで。鈍る方が、ずっと怖い」
彼女の目は、どこまでも静かだった。
そのまま佑真は、医務室に連れて行かれた。
ベッドに横たわり、額に冷却パッドを当てられながら、天井を見上げる。
あの爆発の瞬間、敵ACが一瞬だけ動揺したように見えた。
まるで、命乞いでもしているような――
「――違う、違うって……」
うわごとのように繰り返す佑真に、看護班の川瀬葵が声をかける。
「……怖かったよね。
でも、あなたがいなかったら、あの子たちは死んでた。私は、それがすごいことだと思う」
彼女の声は、あたたかかった。
「次は、助けた命のぶんだけ、強くなればいいんだよ」
強くなる。
何のために? 誰のために?
その問いに、まだ答えはない。
だが、確かに救った命があった。
その事実だけが、今の佑真を“立たせて”いた。
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