第1章 第4話「焼津北部、戦火の街」



爆煙が、住宅街を覆っていた。

瓦礫と瓦礫の隙間に、まだ誰かが取り残されている。

ZAIN‐01は、焼津北部の住宅地跡に静かに降り立った。


「ターゲットAC、3機。民間人の収容コンテナを囲むように展開中」

通信に立花澪の声が入る。どこか震えていた。だが、確かに役目を果たしている。


「敵機は旧式の重装型AC。“TYPE‐DREI”。火力は高いが、動きは鈍い。――やれるよ、佑真くん」


「……ああ、わかってる」


佑真は深く息を吸った。

ZAINの感覚が、彼の思考と同期していく。息を吸えば、機体の胸部が膨らんだ気がする。

地面を蹴り、疾風のように駆け出した。


敵ACがこちらを察知する。

弾道軌道予測ラインが赤く光った。即座に左へ跳躍。砲撃が地面を抉る。


「――ッ!」


恐怖が走る。死ぬ。撃たれれば終わる。

だが、その恐怖が“鋭さ”に変わっていく。頭が冴える。時間が伸びる。


ZAINの腕が伸びる。ブレードが展開される。

滑るように間合いを詰め、敵機の腹部に一閃。


爆発。


1機目、撃破。


「……マジかよ、今の……!」


だが喜ぶ暇はなかった。残る2機が挟撃態勢に入る。後方からミサイル。警報音が鳴り響く。


「ブースト回避!」


梓の叫び声が飛ぶ。直感でZAINを反転させ、背面ジャンプ。

ミサイルが地面に炸裂し、土煙が舞う。その中をすり抜け、2機目に接近。

肩部ブレードで機体の腕を斬り落とし、そのまま胴体へ貫く。


油煙と火花。爆散。

残る1機。


「……最後の一体……!」


緊張がピークに達する。

だが、敵機は動かなかった。コンテナの前に立ち尽くしている。まるで“盾”のように。


「……民間人を、盾にしてる?」


佑真の手が止まる。


どうする――この距離で攻撃すれば、巻き込む。だが、躊躇すれば、逃げられる。


『――佑真、決めろ』


総士の声が静かに届く。


『敵が人を守っているんじゃない。人を“囮”にしているんだ。

 お前は、見誤るな。生かすために、動け』


歯を食いしばる。

佑真は深くブレードを構えた。ラインを描くように、斜めから跳ぶ。

コンテナを避ける角度、刃の角度、加速タイミング――


「……うおおおおッ!!」


機体が唸り、斬撃が走る。

敵ACの頭部が吹き飛び、バランスを崩したまま後退――


爆音の中、コンテナは無傷だった。


静寂が戻る。


佑真は、息を吐いた。


これが、“戦場”。

これが、人を“救う”ということ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る