第1章 第3話「ZAIN、起動」



格納庫は静まり返っていた。

焼津地下施設の最深部。重厚なハンガードアの奥に、それは立っていた。


黒。静謐。美しさと狂気の境界に立つような機体。

人型兵器ZAIN‐01――その漆黒の装甲が、まるで佑真の心を映すかのように、冷たく光っていた。


「……こいつが、俺の機体……?」


「そうだ」と、諏訪部静馬が応えた。「最適化済み。お前の神経同期率は97%。文句なしの適合者だ」


背後では技術主任・赤沼梓が整備パネルを操作している。

「ZAINのインターフェースは神経接続型。直接、お前の反射と意志を読み取る。

 動こうとすれば、即座に動く。考えなければ、死ぬ。以上、以上!」


簡潔すぎる説明に佑真が唖然としていると、梓がにやりと笑った。


「ビビってる暇あんなら、まず乗れ」


機体の胸部が展開され、コックピットが現れる。

佑真は、足を震わせながら昇降リフトに乗った。狭い空間。金属の座席。神経接続用のインターフェース。

無数のケーブルが、彼の首筋、腕、背中へと接続されていく。


「リンク開始。神経同期、スタンバイ」


静馬の声が、通信から響いた。


「ZAIN‐01、起動を許可する。パイロット、髙野佑真。

 目を開けろ。お前の戦場は、ここから始まる」


そして――世界が、動いた。


脳内に直接響く駆動音。四肢の重さ、風の感覚、地面の硬さ。

視界が、ZAINのものと完全に重なる。


「――っ……!」


息が詰まりそうだった。

だが、身体が動く。いや、“思った通りに”動く。

手を握れば、ZAINの右腕が拳を作った。地面を蹴れば、ブースターが唸りを上げる。


「これが……機体と、繋がるってことか……」


だが感動に浸る暇はなかった。

静馬の声が鋭く切り込む。


「第一任務を通達する。現在、焼津北部にて正体不明のAC部隊が民間人を捕獲・拘束中。

 お前は単機でこれを排除、救出に当たれ」


「いきなり実戦かよ!?」と叫ぶ佑真に、総士が通信を割って入る。


『お前なら、やれる。あの夜を越えたなら、もうお前はただの“高校生”じゃない。

 ……行け、佑真。ZAINと共に』


ZAIN‐01の機体が、滑走路を踏みしめる。

ブースターが唸り、揚力が走る。焼けた世界へ、一つの黒い閃光が飛び出した。


髙野佑真、初出撃。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る