第1章 第2話「導かれる者」



焼津市・旧地下資源貯蔵施設。

数十年前に封鎖されたはずのコンクリートの扉が、今は「基地」になっていた。


「……まさか、こんなとこがまだ生きてたなんてな」


佑真は金属の階段を下りながら呟いた。湿った空気。照明は薄暗く、非常灯のように赤みを帯びている。


「生きてた、んじゃない。俺たちが生かした。お前を迎えるためにな」


先を歩く池谷総士はそう言った。

彼の足取りは迷いがなく、まるでここが自分の家かのようだった。


通されたのは、円形の戦術会議室。中央のホロテーブルには、崩壊した日本列島の地形が投影されている。


「来たか、佑真」


低く、響く声だった。

振り返ると、黒のロングコートを羽織った男がいた。40代半ば、鋭い目つきと背筋の伸びた姿勢。

その男――諏訪部静馬が、スレッドゼロの司令官だった。


「……誰ですか」


「諏訪部静馬。君を、この戦争に巻き込んだ張本人だ」


嫌な予感がした。だが、目を逸らすことはできなかった。


「君のデータは1週間前、藤枝上空で観測されたAC戦闘波から一致が検出された。

 私たちは“適合者”を探していた。無人兵器に対抗しうる、唯一の存在を」


ホロテーブルに、1体のACの姿が浮かぶ。

漆黒のフレーム。鋭く研ぎ澄まされたフォルム。剣を思わせるシルエット。


「ZAIN‐01。最新鋭の近接戦特化型AC。だが、あまりにピーキーすぎて誰も乗りこなせなかった。

 君だけが、唯一、完全適合を示した」


佑真は、視線を逸らしたくなった。


「……俺が? 何で……」


「なぜかは、我々にもまだわからない。だが、“戦えるのは君だけ”だ。

 そして、初任務の時間が来ている」


佑真の鼓動が早くなる。


「冗談じゃない……俺は、ただ生き残っただけだ。戦うために生きてたんじゃない……!」


総士が、佑真の肩に手を置いた。


「佑真、お前は生きた。……それだけで、十分だ。

 あとは、ここで何を選ぶかだ。戦うか、逃げるか――お前が決めろ」


佑真は唇を噛んだ。

この崩れた世界で、選べる未来があるのなら。

そしてあの日、誰も救えなかった自分に、意味を持たせるなら――


「……わかった。乗るよ。そのZAINってやつに」


静馬の口元がわずかに動く。


「いい返事だ、髙野佑真。ようこそ、“スレッドゼロ”へ」



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