決戦兵器〜世界は何を求める

@Toliy

第一章第一話 「断絶の朝」



静岡県、焼津市。かつては港と山に囲まれた、穏やかな漁師町だった。

その街が、一夜にして崩壊した。


空が焼けていた。赤でもない、黒でもない、何か別の色。

まるで世界そのものが、内側から燃えているようだった。


「――嘘だろ……」


髙野佑真は、商店街の瓦礫の陰に身を潜めながら、震える指でスマホを握っていた。通信は途絶え、電波は死んだ。ニュースアプリは更新されず、SNSも沈黙。

現実感がない。夢かと思った。だが、足元に横たわる女性の腕が、血と灰に染まっているのを見て、夢ではないことを思い知る。


7日前の朝、突如、世界中の通信衛星が一斉に沈黙した。

その直後、無数のAC――人型戦闘兵器が、世界中の都市に出現した。アメリカ、ロシア、中国、フランス、そして日本。どこの国の仕業かは、今もわからない。


それからの一週間は、地獄だった。

逃げ惑う人々。自衛隊は壊滅。政府は機能停止。学校も、家も、誰も、もういない。


佑真は、たった一人で生きていた。焼津港近くの漁協跡地に潜り込み、わずかな水と非常食で飢えをしのいでいた。


「綾杜……裕太……総士……生きてるのかよ……」


声が震えた。誰かの名前を呼ばないと、気が狂いそうだった。

両親も、妹も、家も、昨日まではあったはずなのに。


風が吹く。潮の匂いと、焦げたコンクリートの匂いが混ざっている。

そのときだった。


背後から、重い足音が近づいてくる。金属音。ミリタリーシューズの音。

佑真は反射的に飛びのいた。廃材の影から姿を現したのは――


「……よう。生きてたか、髙野」


その声を、忘れたことはなかった。だが、信じられなかった。

死んだと思っていた。あの空襲の日、学校ごと吹き飛ばされたはずの――


「……総士、なのか……?」


焼け焦げた軍用アーマーに身を包み、汚れたバイザーを上げたその男は、確かに池谷総士だった。


「話は後だ。ここじゃまずい。お前を連れていく」


そう言って差し出された手を、佑真は、迷いながらも握った。

この焼けた世界で、誰かが生きていることが、ただ嬉しかった。


――そして、少年は知らない。

その手が、自分を戦場へ導く“運命の選択”だったことを。


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