第2話「これあげる。」

花本さんに出会った夏休みの日はよく覚えている。

あの日は1日中暑い日だった。

何をするのも億劫で、暑さが私の活力そのものを奪っていた。

「暑い…。暑くて嫌になる…」

あまりの暑さに気が触れそうになった私は、家を飛び出して近くのコンビニに足を運んだ。そして目についたアイスを手に取ると、会計を済ませてコンビニを出た。

「あ、あの……」

そうしていた時に、ふと声をかけられた。

「ん?どうしましたか?」

その子が、花本さんだった。当時は丸メガネはかけておらず、白いTシャツに黒いジーパンを穿いて、少し寂しそうな眼をしていた。

そして、まるで命乞いをするような目線を送りながら、

「そのアイスを、一口、くれませんか…?」と言ってきたのだ。

「え?こ。これですか?」

「はい…。ひ、一口だけでいいんです」

「そ、そこに売ってますけど…?」

「お、お金が、ないんです…」

当時の私はかなり困惑した。当然の反応だ。

名前も知らない少女に声をかけられたかと思ったら、一言「アイスを一口ください」という、なんとも不思議なお願いをされたのだから。

私は少し考えた末に、

「ちょっと待ってて」と言って、もう一度コンビニに入った。

それから、私はさっき買ったものと同じアイスを買って戻って来た。

「はい。これあげる」

「え?!い、いいんですか…?」

「いいよ。お金についても気にしないで」

少女は予想外だったのか、私の対応に狼狽していた。

だが、それと同時に満面の笑みを浮かべて喜んでいた。

「あ、ありがとうございます!いただきます!」

少女は喜びながら私にお礼を言うと、美味しそうにアイスを齧った。沈んでいた表情が、一気に活気あるものに戻っていった。

「敬語はやめてよ。多分同い年でしょ?」

「い、いくつなんですか?」

「私?私は17だよ」

「あ…、じゃあ、一緒か」

「どこの高校なの?」

「私は、そこの霞晴女子高校」

「え?!じゃあ私と同じじゃん!」

そこからの私たちは早かった。一気に会話が進んだ。

高校の話をするたびに共通点が浮かび、私たちがお互い気が付かなかったクラスメイトであることまで突き止めた。お互いがお互いの存在を知らずに夏まで過ごしてきたことについては、「鈍感だね」と、笑い合っていた。

「私、姫野この葉。あなたは?」

「私は、花本なゆた。よろしくね」

暑い夏のコンビニ前で、前例に浮かばない邂逅。

これが、私の大好きな花本さんとの、最初の出会いだった。

こんな出会い方、どんなフィクションだよって感じるかもしれない。

でも本当に、これが花本さんとの出会いであり、花本さんが私と、出会った日だった。

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