姫野の初恋

伏見翔流

第1話「花本さん」

私は、同級生の花本に片思いしていた。

光沢のある黒髪を三つ編みおさげにし、丸いメガネをかけている。

ふたえの瞳は凛としており、とても可愛らしい。

着崩していないセーラー服に似合ったその姿には、思わず鼓動がうるさくなる。

静かに机に座って、オリジナルのブックカバーを付けた本を読んでいる。確か、恋愛小説が好きだって言ってた。

「花本さん、ちょっといい?」

廊下から彼女を呼ぶ声が聞こえる。その声に反応した花本さんが「はーい」と言って、ページの間に栞を挟んで、丁寧に本を机に置いて声の方に向かう。

「声も可愛いな…」

私はそんな風に思っていながら、廊下に消えていった花本さんを眺めていた。

「そんなに好きならさ、付き合っちゃえばいいじゃん」

「な、なに?聞いてたの?」

「うん。花本さん見てる時の姫野のカオ、面白かったからさ!」

後ろから声が聞こえたと思ったら、友人の辺見さんだった。

「なんで告白しないの?誰かに捕られちゃうよ?」

「だ、だって…」

その続きが言い出せなかった。が、

その理由は、簡単に打ち明けられるものではない。

それでも、花本さんが好きな気持ちは変わらない。むしろ、強まるばかりだ。

用事を済ませた花本さんの揺れる髪と、程よく育った胸を目で追いかけながら、

チャイムが鳴って次の準備をする花本さんを眺めていた。

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