第11話
「いいか、よく聞けよ」
耳元で響く深い声に、妙な安心感を覚えてしまう……
「俺は金には興味ない」
「嘘つき」
……けれど、嫌ね。やっぱりただの嘘つきじゃない。
ついさっき盗みを働いていたのはどこのどいつよ。お金に興味がないのなら、なんであんなことしたのよこいつ。
「嘘じゃねぇ。まったく恥ずかしい話だが、実は俺、家出中なんだよ。親と喧嘩して家飛び出したは良いものの、行く宛もなければ金もほとんどなくて。結局自分の無力さを知っただけで何にもできっこねぇから、もうどうにでもなれと思って人様の鞄を盗ってみたんだ」
「何よ、それ……」
まるで全てを諦めたかのように、しんみりとした声でそんなことを語りださなくてもいいじゃない。
こいつの言ってることはメチャクチャなのに。どうにでもなれと思ったからといって、人のものを盗って良いはずがないのに。
あまりにも悲しげに言うものだから、その無責任さを責められないじゃないの。
「だけどあんたに出会ったから、どうでもいいなんて思えなくなったんだよ。あのまま警察に捕まったりしたら、あんたとはもう二度と会えなくなっちまってただろ?だから盗った鞄をお婆さんに返して、あんたを抱えてあの場から逃げ出したって訳」
“鞄を返したところであのお婆さんに許してもらえる保証はなかったからさっさと証拠品無くして逃げるのが一番かなと思ったんだ。”
なーんて語るこいつの声は真剣そのもの。
だけどおかしいわよね、こいつの話。
「犯罪をすること自体、間違ってるよね」
ダメだよね、捕まらなければ良いって問題じゃないよね。
「あぁ、もうしねぇよ。盗みなんて絶対しねぇ。あんたがいれば他は何にもいらない。一文無しでも構わないから、俺は本気であんたが欲しい」
私の背中を優しくさすりながら真剣な声色でそんなことを言うこいつは、本当に何も企んでなんかいないのかもしれないわ。
なーんて思うのに、どうしても信用しきれない私はただの臆病者かしら。
だけど、どうしても怖いのよ。
信用した矢先に裏切られたらと思うと、怖くて怖くて仕方がないの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます