第10話

それに、私は騙されないわよ。


「一体何を企んでいるのかしら」

「何にも企んじゃいねぇって、何度言ったらわかってくれるんだ」


嘘おっしゃい。


「さっきこの部屋に入った瞬間、あんたがにやりと笑ったの私ちゃんと見たんだから」

「バ、バカか、あんた何言ってんだ。俺は絶対にやけてねぇぞ」


あらあらあら。こいつ意外とちょろいのかしら。


さっきはあんなにも読めない表情をしていたくせに、今はこいつが焦ってるのが手に取るようにわかるわ。


「私に嘘は通じないわよ。だから、ねぇ。正直に答えなさいよ」


さぁ、そろそろ本当の目的を吐きなさい。今なら私が、ゆっくりじっくり聞いてあげるから。


「……にやついたら悪いのかよ」


あらあらあら。こいつ、ついに本性を出したわね。


「なら、認めるのね。さっきにやりと笑ったこと」

「あぁ、認めるよ。認めりゃいいんだろ?こんな狭い部屋にあんたと2人っきりだってのに、にやつかずにいられるわけねぇだろうがバーカ」


心から私を馬鹿にしたような言い方で堂々と言い切った目の前の奴。


それにしても……嫌だわ。


自分の腕で顔を隠し、その隙間から真っ赤な耳をのぞかせている奴に馬鹿にされるなんて。


「ほんと憎らしい奴」


こいつは一体何がしたいのよ。


甘い言葉を囁いて、にやりとしたり、逆切れしたり。まるで照れたかのように顔を真っ赤にさせてみたり。


そんなことをして、誤魔化す必要ないでしょう。


「憎らしいのはあんたの方だろ。こんなに俺に意識させるくせして、俺の気持ちを理解しようとすらしねぇんだから」

「何よ、それ」


全く意味がわからないわ。こいつは何を言ってるのよ。


こいつの気持ちって、何よ。

私が理解しようとしてないって、何なのよ。


そんなの。

そんなの、当然じゃない。


理解なんてしたくないに決まってるじゃない。


「俺があんたを好きだってこと、どうしてわかってくれねぇんだよ」

「嘘よ」


ベッドから降りて立ち上がったこいつの、私に訴えかけてくるその瞳はとても真剣に感じられるけれど、そんなの嘘。


こいつはいつまで、こんな嘘をつき続けるつもりなのかしら。


「嘘じゃねぇ」


絶対嘘よ。

だって、だってそうでしょう。


「私が神枝の人間だからそう言うんでしょう。神枝の力が、お金が欲しいから、だからその為に私を手に入れたいんでしょう」


もう嫌だわ。

本当に嫌だ。

なんで視界が急に真っ暗になるのよ。

どうして、またこんなことになるの。


「あんた、また震えてる。」


なんでまたこいつに抱きしめられなくちゃならないわけ。


「私を離しなさいよ」

「誰が離すかよ」


何こいつ何こいつ何こいつ。


こいつに抱きしめられるなんてたまったもんじゃないのに、どうしてさっさと離してくれないのよ。


「最悪ね」


優しく背中をさするなんて最悪。

まるで知っているかのように。

私が今すぐ泣き叫びたいくらいに怯えているということに気付いているかのように優しくするなんて……最悪だわ。

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