モテる条件でいちばん君がずるい!

「モテる女の条件」――そんなタイトルに、私は思わずページをめくった。

放課後の図書館。隅っこで見つけた恋愛ハウツー本には、無邪気な表紙イラストと共に「裸エプロン」の文字が踊っていた。


「裸エプロン…?」

小さな声で呟き、ページを読み進める。

「ギャップ萌え」「主導権を握る」…どうやらエプロン一枚で家事をする姿は、最高に“攻め”らしい。

私は胸が高鳴りながら、帰り道を足早に進んだ。


――家。


「ただいま」

玄関を開けると、いつも通り「おかえり」の笑顔が待っている。でも、今日は違う。私はリビングへ急ぎ、クローゼットで息を整えた。


パタパタ。

頭からかぶったのは、小さめのチェック柄エプロンだけ。

下には何も――まるで本に書いてあったとおりだ。


「う、うわっ…!」

背後から聞こえた驚きの声。振り返ると、風がドアの前で固まっていた。

「ひ、ひなちゃん…それ、どういう…?」

頬を真っ赤にしながら、彼女の目が私の肌を上下へ忙しなく跳ねる。


「えっと…読んだの。モテる方法として…!」

慌てて手で胸元を隠しつつも、不思議と自信が湧いてくる。

「だから、風に…もっと“好き”って思ってほしくて…」

小さく誤魔化すと、風は目を細めた。


「…ひなちゃん、可愛い…でも、本当に…?」

そのまま歩み寄り、そっとエプロンの紐を結び直す風の指先。

「うん…これでお料理したら、きっと…」

言いかけた瞬間、風が前へ回り込んで、ぎゅっと抱きしめてきた。


「ずるいよ…こんなに可愛いなんて…」

耳元で囁かれると、心臓がきゅんと鳴る。

「じゃあ…仕返ししちゃおうかな」

小指がそっとエプロンの裾をくい、と引き上げる。


「きゃっ…!」

笑いながら私は手を伸ばし、風の頬をくすぐった。

「モテ女のたしなみ、成功?」

満面の笑みで問いかけると、風は少し困った表情で目を逸らした。


「うん…でも、ひなちゃんがやると特別すぎる」

そのままソファに腰かけると、風も隣にぴたり。

「もっと、キュンとしてほしかったんじゃないの?」

「うん…でも、本当は…」

言葉を探す風の指先が、私の小さな手をそっと絡めた。


「ありがとう、風だけに…私を見てくれて」

「ひなちゃんのこと…全部、見ていたいから」

ふたりの手がぎゅっと重なり、エプロンの下でときめきが弾ける。


甘い夜の続きを予感させながら、私たちはそっと顔を寄せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界でいちばん君が好き! 通りすがり @-141421356-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画