水着でいちばん風がすごい!

「ひなちゃんっ!見て見てっ♡ この水着、今日のために作ったの〜!」


 そう言って、風がプールサイドでくるりと回る。

 ……その姿を見た瞬間、私の心臓は止まりかけた。


「……えっ」


 紺のスクール水着。だった“はず”のものが、

 肩ひもを切ってリボン結びにして、

 お腹の部分を大胆にカットし、

 上下セパレートのビキニ風になっていた。


 水面のきらめきが、風の肌にやわらかく跳ねる。

 それは、健康的で、でもどこか見てはいけない色気だった。


「……それ、スク水……だよね」

「うんっ♡ はやて兄ぃが着なくなった古いやつ、ちょっと切ってみたらビキニっぽくなっちゃって!」


「普通、そうなる前にやめるよ……」

「えーでも、ひなちゃんに見せたくて……♡」

「……バカ……ほんと、そういうとこ、ずるい」



---


 一方、私はシンプルなネイビーの競泳タイプ水着。


「ねえねえ、ひなちゃん……見せてくれないの?」

「もう見てるでしょ」

「ううん。ひなちゃんが、自分から“見せる”って言ってくれなきゃ」


「……風」


 プールサイドのベンチに並んで座ると、風はすぐに腕をからめてくる。


「ねえ、今日は……“泳ぎ”以外にも、練習したいことがあるんだけど」

「……なに、それ」

「たとえば、こういうの♡」


 そう言って、風はこっそり私のほっぺに、ちゅっ。


 指でそっと水滴を拭いながら、風の目はまっすぐ私を見つめていた。


「……ダメ?」

「……ずるいって、言ったでしょ」



---


 プールの中。


 抱きつくように背後から回り込んでくる風。

 髪が濡れて、肌がぴたりとくっつく。


 「ひなちゃんの背中、つめたくて、きもちい〜♡」

 「……風が近いだけ」

 「えへへ、じゃあ、もっとくっつくね」


 私の首筋に、やわらかく風の唇がふれた。

 水のせいじゃない、熱がひろがっていく。



---


 帰り道。


「今日のごはん、わたし作るねっ!お兄ちゃん出かけてるし♡」


 家に戻ると、風は手際よくエプロンをつけ、冷蔵庫を開ける。

 調味料の使い方も、包丁の動きも、完璧だった。


「風……こんなにできるんだ」

「ふふっ。はやて兄ぃに全部教わったんだよ」

「へえ……はやて兄、すごい」

「……でも、わたしがごはん作ってあげたいの、ひなちゃんだけだから」


 ふっと私の方を向いて、風がにっこり笑う。


 その顔が、なぜかさっきのビキニより、ずっとドキドキした。

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