お風呂でいちばん君が綺麗!
「ひなちゃん、お風呂いっしょに入ろ?」
ぽふん、と浴室の前でバスタオルを抱えて笑う風を見て、私はほんの少しだけ迷った。けれど、断れるわけがない。
風の家のお風呂。白い湯気のなか、ふたり並んで肩まで湯船につかる。湯温はちょうどよくて、風の横顔もゆるんでいる。
「ねえ、ひなちゃんってさ、鎖骨きれいだよね」
「……は?」
「あと、背中とかも。こうやって、ぴたって……」
風がそっと背後に回り込んできて、腕をまわしてくっついてきた。濡れた肌がぴたりと密着して、私は言葉を失う。
「ひなちゃん、あったかい……すき……」
「風、やめ、近い……」
「だって、こうしてると、安心するんだもん」
ぼそっと囁くその声に、私の心臓はうるさく跳ねた。お湯よりもずっと熱いのは、彼女のぬくもりだった。
風の髪が私の肩にふれて、くすぐったい。離れようとしたけど、力が抜けてしまって、どこにも逃げられなかった。
風の指がそっと、私の指をなぞる。
「……ひなちゃん、今夜もいっしょに寝よ?」
「……うん」
ほんの少しだけ頷いたら、風がすっごく嬉しそうに笑った。
お風呂を出て、ふたりで髪を乾かして、下着をつけて、パジャマを羽織る。おそろいの水色とピンクのフリル下着――ふたりだけの、ひみつのペア。
風のベッドはシングルサイズ。寝返りしたら落ちそうなくらい狭くて、でも隣に風がいるなら、ちょうどいい。
「ひなちゃんってさ、今日もめっちゃ可愛かったよね。プールのときも」
「……風も、反則だった。あのスク水ビキニ」
「えへへ〜。ひなちゃんのために、がんばって作ったんだよ?」
にこにこと笑う風の顔が、まぶしくて、私は目を逸らしたくなった。
でも、言わなきゃ。
「風」
「ん?」
「……好きだよ」
静かな部屋の中、布団の中、息の音まで聞こえる距離。風の目が、ふっと大きくなる。
「……ほんと?」
「……うん」
風の指が、私の頬にふれる。そっと撫でるように、耳の後ろをなぞる。
「わたしも……好き。世界でいちばん、ひなちゃんが好き」
そのまま、手が髪を撫でて、そっと私の腰にまわる。やさしく、あたたかくて、でもどこかくすぐったい。
「……風、さっきから……」
「な、なに?」
「さりげなく触れてるの、わかってるよね」
「ち、ちがっ……無意識!無意識だったの!自然に寄っちゃってて!」
「自然に、胸が私の腕に乗ってくるの?」
「うぅぅ……だって、ひなちゃんの腕、落ち着く……」
「……ほんと、ずるいよ、風」
私はそっと、彼女の頬に顔を近づける。鼻先がふれるくらいの距離。
「添い寝だけ、って言ったのに」
「だ、だって……わたし、ひなちゃんのこと、ほんとに……」
「……ん」
ふわりと、唇がふれた。
音もなく、やさしく、やわらかく。
風が目を閉じた。私も、目を閉じた。
唇を離したあと、風の声がかすかに震える。
「……ひなちゃん、これって……キス、だよね?」
「……うん。たぶん、そうだと思う」
風がふふっと笑って、私の手を、指ごとぎゅっと握る。
「じゃあ、もっとしたら……ダメ?」
「……それは、また明日」
「えぇ〜〜……」
私たちは、笑いながら、ひとつの毛布にくるまった。ふたりの体温がとけて、夜がゆっくりと深くなる。
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