第1章 星と文と小説と。

そこは人々が娯楽を求め、様々な文化が混ざりあう革新的な街、星影街。

海の外からやってきたと言われる文化が街を埋めつくし、瓦屋根の商家や レンガ作りの建物が混じりあっている。

そんな街の中で、私は日々、ただただ文を綴っていた。




「世の中は皆星の元にありて、皆自由である。」


こう書き留めて、筆を止める。

これは、空想だ。理想だ。

どうして争いは無くならないのだろうか。


今もこの街の外では、争いが起きていて、血が飛び散っている。

もちろんこの街もいつ戦争に巻き込まれるかも分からない。政府は表向きは安全を謳っているが、噂ではこの街ももう既に外の国に売られているという話でもちきりだ。

それでも街がこんなにも華やかで爛々としているの少しでも希望をもちたいという人々の想いの形であろう。



そんな私が、世界を渡ってきた旅人であると、ToNαRe:であると自覚したのは初めて本を出版した日の帰り、骨董品店でとある鍵を手にした時であった。

赤く輝く宝石の埋め込まれた金色の鍵。

これが、どうやら記憶を繋げる文字通り『鍵』であるようだった。



この日から、私は、この世界で『あの人』を探し始めたのだ。



これはそこから数年経った頃であろうか、とある小説を出版した。

タイトルは『世を灯す魔術師』

故郷の世界での実体験を元に『あの人』をモチーフにして綴ったものである。

これが空想上の物語であるが、リアリティに長けていると評判になり大ヒットした。


出版の理由はもちろん生活費を稼ぐためでもあったのだが、別の目的としては故郷の街を詳細に描いた本を出版することでこの世界にいるかもしれない『あの人』に見つけてもらう為でもあった。


それからまた数ヶ月が経った頃。

1つの手紙が届いた。

「私はもう60になる老いぼれです。もう最期も近いと感じているのですが、貴方の小説を拝見いたし、子供の頃の懐かしい思い出が蘇えりました。そしてこう綴らせて頂いた訳であります。そうあれは…」


ここまで読み進めた所で直感で感じた。

やはり『あの人』はこの世界に訪れていたのだ。何十年も前に……!



さっそく私は手紙の差出人の元へと訪れた。

遠くの地であったのと、戦争の影響もあり大回りし、半月程かかってしまったのだが、ようやく到着したその村はかなり辺鄙な地であった。

だが、遅かった。

差出人の家はもぬけの殻。隣の方によるとつい数日前にお亡くなられてしまったとの事であった。


唯一の手がかりを失ってしまったと、途方に暮れたのだが、まだ希望は潰えてはいなかった。

その息子が星影街で働いているというのだ。それもあの骨董品屋に。


私は急いで帰路に着いた。



そして、また半月程かかって星影街に戻ると街の様子は一変していた。

活気のあった人影は消え、入口には幕を下ろしている店ばかりだ。


骨董品屋は…骨董品屋はどうだ…!


つい刻み足になる。

だが幸運な事に見知った角を曲がった先にある骨董品屋は普段と何も変わらない面構えであった。


「店主、店主はいるか…?」

「あぁ、と思ったらいつぞやの。どうしたんだね神妙な顔をして。」


そこでこれまでの事を話すと、店主は深く考え込み、店の奥から1冊の本を持ってきた。


「これは、母さんが大切にしていた本だ。」


そして、店主はこう続けた。


「あれは、俺がまだ7つの頃だった。よく覚えている。俺がかけっこをして遊んでいた時に降ってきたんだ。人が。何も無い空からだ。そいつはこの国では見かけぬ奇妙な姿をしていて、何を言っているかも分からなかった。だが、幼いながらにもそいつが困っている事を悟った俺は家へ連れていったんだ。最初は嫌がっていたが家族は向かい入れ、うちで生活するようになった。」


「そして少しずつ、そいつも言葉を覚えていって、話すようになった。そんで少しずつ村作りに協力してくれてたんだ。不思議な力を使ってな。そのおかげか、そいつがいる間は畑の実りがよくてな。食べ物に困ることはなかったよ。そして俺が20位になった頃かな。そいつが旅に出るって行ったんだ。他の世界に行ってくるって。俺には何を言っているのかさっぱりだった。その時に残していったのがこの本なんだ。中身はなんにも書いてない。」


「ただ、そいつが言ってたんだ。もしかしたら別の世界から来たって言う変な奴が来るかもしれない。そうしたらこの本を渡してくれって。それで思い出したんだ。そいつのことを。」


店主はそう言うと、本を差し出してこう言った。


「お代は結構。その代わりこれも縁だ、死ぬまで俺はこの店を続けるつもりだ。あんたがもしそいつと出会うことが出来たらこう伝えてくれ。母さんは最期までお前の事を気にかけてたよ。ありがとなってな。」



そして、また来てくれと約束した骨董品屋を後にし、家に着いた私は早速その本を調べてみることにした。


これは…とても丁寧に装丁されている。

表紙は皮のようなもので出来ており、丈夫な作りになっている。その表側には星とそれを囲う二重丸、そして朱色の宝石が埋め込まれていた。


直感で気が付いた。これは星屑だ。

そしてなによりも、『あの人』の存在を感じさせる『月と吊られた星』が表紙裏に描かれている。

やはり、『あの人』はこの世界に訪れたのだ。


そう思うと、ホッとした。この世界を生き抜いた意味があるという事だ。


しかし、安心してはいけない。これが魔道具という事は明白だ。すると、この本にもきっと何らかの効果が存在するはずだ。


だが、ページをめくれど特に記述はない。

どうしたものかと悩ませていると、突然、鍵の宝石がきらりと光った。


まさか…と思いながら鍵をかざすと不思議な事が起こった。

なんと白紙だったページに、次々と故郷の世界や研究所、つまりこの世界の風景が描かれ始めたのだ。


そして、背表紙にも文章が現れた。



〚星屑のキミへ。

辿り着いたんだね。おめでとう!


この本は『世界渡りの本』

キミに渡したその鍵に保存された世界情報を記してくれる魔道具だ。

それがあれば、いつでも今までに通った世界なら渡る事が出来る。便利な道具だろう?


さて、それでは僕は次の世界へ旅立つ事にした。

この世界にも僕が探し求めてるものはなさそうだからね。

それじゃあ、旅を楽しんで!〛


文章はこれっぽっちだった。




1週間後。私は次の世界へ渡ることを決意した。

その頃には不思議な事に、星影街には活気が戻っていた。

どうやら、研究に没頭していたこの1週間のうちに近隣の世界では戦争は終結し、和平へと向かっているらしい。


「世の中は皆星の元にありて、皆自由である。」


そう呟き、この世界を後にしたのだった。

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星を紡ぐ物語 @ToNaRe

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